Spotify「RADAR」と「Altar」に見る、新進気鋭のローカルアーティストサポート戦略
現在、傘下の関連サービスを含め、様々な形でアーティストと音楽産業の発展に関わるSpotifyだが、今年3月に新たなプログラム「RADAR」を開始した。
同プログラムは、新進気鋭のアーティストを宣伝することを目的に今年は世界各地から36組を選出し、19の姉妹プログラムを展開。日本からは「Early Noise 2020」にも選出された藤井風、Rina Sawayama、Vaundyの3組も選出されている。
さて、その「RADAR」では具体的にどのように気鋭のアーティストを宣伝するのだろうか? まずわかりやすいのが「On Our RADAR」というSpotify公式プレイリストへのフィーチャーだろう。プレイリストが強い影響力を持つ最近の音楽業界ではこれにより世界中のユーザーへのレコメンドとなり、フィーチャーされたアーティストの国際的な認知度と再生回数向上につながるわけだ。
また、このプログラムが魅力的なのはSpotifyが持つネットワークによって、グローバルマーケティングとエディトリアルチームからのサポートを受けられるという点だろう。Spotifyの発表によると、例えばアメリカでは、同社とパートナーシップを結ぶCOLORSxSTUDIOSが運営する人気音楽系YouTubeチャンネル「A COLORS SHOW」への出演を始め、ミュージックビデオ撮影のサポート、先述の「On Our RADAR」プレイリストのカバーに抜擢することやSpotifyからのシングルリリースなど、すでに手厚い「RADAR」サポートが行われているという。
さらに、このサポートは一時的なものではなく、選出されたアーティストの”長期的な成長と音楽業界での成功を実現するためのもの”になっている点は非常に興味深い。現在のストリーミング全盛の音楽業界では、バイラルヒットによる”一発屋”的なアーティストも少なからず存在する。そういったアーティストの中には次の一手をどのように打つべきか、勢いをどのようにして維持していくべきかについて少なからず迷いが生じる者も少なくないと、Spotifyのグローバルヒット部門の長を務めるNed Monahanは認識している。そのため「RADAR」は、6ヶ月から1年というサポート期間を設け、アーティストが業界で長期的にキャリアを築いていけるように先述のような様々なサポートを行うのだ。
そして、もうひとつ興味深いのは、「RADAR」はグローバルなプログラムではあるものの、サポートを行うローカル・チームがそのエリアの市場の実情にあわせながら独自にプログラムを適応させていくことができる点だ。これについてMonahanは、「それぞれの市場における成功の概念に合わせ、ニーズ並びにローカルの専門知識に基づいてRADARブランドの下、アーティストを支援する」と語っており、実際に中南米では独自にSpotify AwardsにRADAR賞を設け、中南米の才能を世界に紹介するプラットフォームを開発するなどエリア毎に独自性のある施策が取られている。そのことから「RADAR」にはアーティストのグローバルな成功を目指しつつもローカルでの成功にも対応する、いわばグローカルな視点が採用されているといえるだろう。
特に新進気鋭のアーティストの中には海外と国内の評価が極端に分かれる場合もあり、”アンダーグラウンド”のアーティストにはそういった傾向が見られがちだ。そのため、サポートを受けるアーティストからしても、グローバルとローカルの二軸でサポートが展開されることはそのギャップを失くすという点で大きな意味を持つだろう。