“テクノの皇帝”リッチー・ホウティンがアプリ「CLOSER」で見せた次世代ライブDJの可能性 進化の鍵を握るのは5G?

 DJ業界で“テクノの皇帝”や”ミニマル・テクノの帝王”などの異名をとり、90年代からカリスマ的な人気を誇るDJ/プロデューサーのリッチー・ホウティン(Richie Hawtin)。その活動はDJやプロデューサーといったアーティスト活動にとどまらず、「Plus 8」、「M_nus」といったレーベルを主宰し、これまでにシーンを担うアーティストたちを発掘しサポートを行なうなど多面的だ。

 そんな彼はロボット工学技師の父を持つという背景もあってか、常に最先端のテクノロジーを用いた表現にも敏感で、人気DAW(音楽制作)ソフトの「Ableton Live」や、Native InstrumentsのDJソフト「Traktor Scratch」の初期開発プログラムの開発にも尽力。テクノアーティストの枠にとどまらず、音楽とアートとテクノロジーを融合させることに積極的に取り組んできた人物である。

 近年は、機材ブランドの「PLAYdifferently」を立ち上げ、サウンドクオリティにこだわった、楽器として扱えるフル・アナログ・DJミキサー「Model 1」を開発販売したほか、テクノロジーを駆使したオーディオ・ビジュアル・ライブセット「CLOSE」を披露。

 特にそのライブセットは、”人間の創造性とテクノロジーを駆使してDJとライブの境界線に挑むプロジェクト”であり、規則正しく刻むビートに人間の直感を組み合わせ、即興テクノを作り上げていくことをコンセプトに掲げている。また、「CLOSE」はそれに加えて、ビジュアル面にもテックなこだわりがあり、プレイするリッチー・ホウティン自身の姿を各機材に取り付けた無数のカメラが巨大スクリーンにリアルタイム投影。観るものは機材を巧みに操る姿を目にすることで、彼の意識・世界観そのものに没入することができるというものになっている。

 この「CLOSE」では、DJソフト、DAWソフトのほかにアナログ機材であるモジュラーシンセも使用。それらの機材を扱う姿を先述の無数のカメラで撮影し、アブストラクトな映像エフェクトをかけることでビジュアルを作り出していく。

 その解説動画では、実験的なものでありながらも彼自身が感じていることを観客とシンクロさせることで、どのようにその流れを作り上げていくのかを体感できると語るリッチー・ホーティンだが、昨年、リリースされたスマホアプリ(iOS/Android)の「CLOSER」は、その可能性をさらに押し上げるものになっている。

 ドイツのTelekom Electronic Beatsと共同開発したこのアプリでは、オーディオ・ヴィジュアル・ライヴセットをフィーチャーした2019年のアルバム『CLOSE COMBINED』を基にしたもので、アプリはユーザーが『CLOSE COMBINED』を様々な角度から鑑賞したり、視聴しながらライヴ・セットを解体、特定の層に分けたりすることができるのが特徴だ。

 この記事を執筆している時点でアプリのコンテンツとして視聴できるのは、ブタペストでの「BUDAPEST CONDENSED」とグラスゴー、ロンドン、東京でのライブをエディットとした「CLOSE COMBINED」の2つのコンテンツになっている。

 これらのコンテンツでは、先述の機材を巧みに操り、即興ライブを作り上げていくリッチー・ホウティンのパフォーマンスを単純に音とビジュアルで楽しめるだけでなく、例えば、本人の両脇に設置されたミキサー、シンセ、ドラムシーケンサー毎のクローズアップされた手元映像も視聴でき、それによって、ライブの現場で彼がどのような操作を行なっているかをユーザー自身の目で確認することができる。

 また、DJデッキ、シンセ、ドラム、エフェクトの4パートそれぞれに音声チャンネルが割り振られており、スマホスクリーンに表示されるパートの表記部分をタップすることで、その音声チャンネルのオン/オフが可能になっている。これによりユーザーはリッチー・ホウティンのパフォーマンスを自分好みにアレンジしながら楽しむことができる。この機能は本人がライブセットの解説動画で語っていた「”シンクロ”することでリッチー・ホーティンがステージ上でどのようにして流れを作り上げているのかを体験することができる」に通じる部分だ。

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