『カスタムキャスト』1周年記念インタビュー:ユーザー発信で広がる“遊び”とVTuberの可能性
「結局、ユーザーさんにはかなわない」(栗栖)
――「THE SEED ONLINE」との提携などについては、どんなふうに進めていかれたのですか?
川崎:「THE SEED ONLINE」は、もともとバーチャルキャストさんが開発されたもので、サービスの開始当初から「一緒に連携していきましょう」という形で相談をしていました。それが標準化していって、VRMフォーマットが共通言語化していったので、カスタムキャストでつくったキャラクターを出力していただくひとつの場所になっていただいています。
――キャラクター/アバターの活躍の舞台を広げていくための試みですね。
川崎:そうですね。僕らはアバターを出力する側で、バーチャルキャスト社さんが広げる側になってくださっていますね。
――他にサービスを進めていく中で、大事な気づきなどがあれば教えていただけますか?
栗栖:それはやはり、「結局、ユーザーさんにはかなわない」ということだと思います。コスチュームを実装しても、我々が「こういう使い方をしてくれるだろう」と想定していたことからは予測できない使い方をしてくださる方が多いんです。人によってはスカートをかぶってみる方もいますし、想定していなかった着回しをされる方もいらっしゃいますので。
――ある意味では、ユーザーの方々と一緒にサービスを発展させているような感覚なのかもしれませんね。
川崎:本当にそうですよね。そういった部分はすごく大きいと思います。
栗栖:そして、運営はいつも負けている、と言いますか(笑)。
――いえいえ(笑)。
栗栖:たとえば、配信者の方々に向けてコンテストを開催するにあたっても、「こんなコンテストがいい」というアイディアを、ユーザーさんが出してくださることがありますし、独自に採点ルールを決めて楽しむ方々もいて、我々もそれを見て、「そういうものが嬉しいんだ」と気づく瞬間があります。ですから、私たちは運営として環境を整えることを大切にして、出しゃばりすぎずに、ユーザーの方々が楽しめる場所を整えたいと思っているんです。
川崎:また、これは流れが一周してきているということかもしれませんが、ユーザーの方にうけるコスチュームが、一般的なものから、よりエッジの効いたものが好まれる方向に変わってきていることも感じます。たとえば、最近では季節ものの水着のようなコスチュームも好まれていますし、最近のアップデートでは、水着と上着を同時に着られるというアップデートを実装しました。ただ、エッジの効いたコスチュームを出せば出すほど、配信者の方々からすると、「もうちょっと普段着感覚で着られるものがほしい」という要望も生まれるので、配信をされる方とキャラメイキングだけを楽しまれる方のニーズに対して、バランスを取ることの大切さも感じているところです。
――現在のところ、配信を楽しむ方々と、キャラメイクを楽しむ方々は、それぞれクロスオーバーしているような状況にもあるのでしょうか?
川崎:いえ、現状ではそれぞれのユーザーの方々は層として分かれている印象で、どちらかに魅力を感じて、それぞれの興味に応じて使っていただいているような状況だと思います。
栗栖:そうやって2つの目的で利用している方々が、よりクロスオーバーするような状況を整えることも、これからは必要なのかもしれませんね。たとえば、キャラメイキングが得意な方がつくったアバターを使って、配信をしたい方が配信者として活動する、という状況が生まれてもいいかもしれません。喋る方、絵を描く方など、ユーザーさんがそれぞれに得意な能力を生かして楽しんでくださって、そうした人々が集まってくるような場所/文化が生まれることがあれば、それはとてもニコニコっぽいカルチャーだと思いますので。
――配信が好きな方、キャラクターメイキングが好きな方のそれぞれにおいて、開始当初とは「遊び方の変化」のようなものを感じている部分はありますか?
川崎:「遊び方の変化」というよりも、その「クオリティの変化」を感じている、ということはあるかもしれません。配信をされている方も、キャラクターメイキングを楽しまれている方も、それぞれにスキルが上がっていらっしゃって、とてもクオリティの高い配信/キャラクターメイクが生まれているのは、僕らとしても嬉しいです。また、キャラクターに設定や物語を加えて楽しむ方が増えてきたりもしていますし、一方でイラストを描かれる方が「カスタムキャストをポーズの参考にするために使う」ということも起きていたりと、新しい楽しみ方や活用法をユーザーの方々が見つけてくださったりもしています。SNSで自ら作成したキャラクターをつかったコラボ画像をつくってくださる方もいますね。
栗栖:今では配信者の方々がたくさんギフトをもらってコンテストやイベントで優勝するために、熱い気持ちで配信を行なったり、中にはイベントの終盤になると、泣きながら自分の優勝への想いを伝えている方もいて、カスタムキャストがそんなふうに熱くなってもらえる場所になっているということにも、嬉しさを感じたりしています。
――人々が夢中になれるような場所になってきているということですね。お2人が、バーチャルな配信ならではの魅力を感じた瞬間なども教えていただけますか?
川崎:僕たちは公式放送を担当しているので、その機会にみなさんの画像や動画を投稿していただいて、そこで何かを感じたり、色々なことを気づかされることはとても多いです。
――ライブ配信をされている方ですと、何かハプニングが起こったときの対応に多くの方が惹かれたりするということが起こったりもして、そういった部分もとても面白いですよね。その方の人間性が見えて、そこに惹かれるような魅力があると言いますか。
川崎:そうですよね。予定調和では終わらないからこそ、みんなが楽しめるということで。
栗栖:また、バーチャルな配信者の方々には、それぞれが自分の理想の姿を手に入れられる楽しさを感じる一方で、中には自分の顔を出している方もいるんです。そういう意味でも、単純に理想の容姿を手に入れられるというだけではない魅力があるのかな、と感じる瞬間もあると思います。カスタムキャストを通じて理想のアバターをつくっていただくことで、自分や周りの方々の気づかなかった好みに気づくこともあるかもしれません。たとえば、「ああ、川崎さんはこんなキャラクターをつくるんだ。こんなものが好きなんだ」と(笑)。
川崎:人がつくったものを見て、自分の好みに気づかされるような瞬間もありますよね。
――お2人は、現時点での「カスタムキャストの個性」はどんなものだと感じていますか?
川崎:僕自身は客観的に見られないところがあるんですよ。自分の場合、ずっとやってきたものが現在のカスタムキャストのサービスに繋がっている部分があるので、たとえば栗栖さんが驚かれることと、僕自身が驚くことというのが、いつもずれていたりするんです。
栗栖:たとえば僕が「こんなに細かくキャラクターメイキングができるのか?!」と驚いたとしても、川崎さんはずっとそれをやってきた方なので、それは普通のことになっていて。
川崎:そういうことが多くあるんです。
――むしろ、カスタムキャストのサービスがはじまって、多くの人が「こういうことに驚くのか?!」ということを実感している、というイメージですか。
川崎:キャラクターメイキングの機能に関しては、そういう感覚なんだと思います。ですが、一方でVキャスター、VTuberの方々の配信文化に関しては、日々驚くことがたくさんありますし、バーチャルキャラクターの理念についても、「自分の中ではこう持つべきなのかな」というものが、ふつふつと湧いてきている状態なんですよ。特にここ半年ぐらいは、それをすごく感じています。ユーザーのみなさんには、手軽に遊んでいただいて、配信を楽しんでいただくことが一番ですが、僕個人としては、「キャラクターやバーチャルな配信者の方々の未来というのは、どうあるべきなんだろう?」ということも、より考えるようになっていて。そういう自分の中での解釈の仕方が、どんどん生まれてきているのを感じています。
――それはきっと、カスタムキャストを通じてサービスを続けてこられたからこそですね。
川崎:そうなんですよ。僕はカスタムキャストをはじめる前は、ただゲームをつくっていた人間だったので、そのままだったら、こんなことを考えるようにはならなかったですから。