『テラスハウス TOKYO 2019-2020』、“東京の今の若者像”を描き続けた2019年を振り返る

『テラスハウス』東京編、2019年を振り返る

 今シーズンの初期メンバーはバンドマン、イラストレーターに俳優(女優)、そこにスパイスとしてなんとも今風なフィットネストレイナーとフリーターといった洒落た職業の若者たちが集まったことで、傍目には“東京”という都市で暮らす人間のトレンディな要素、とりわけ地方在住のティーンからすると憧れでしかない“東京ならではのアーバンライフ”感が非常に強かった。

 その意味で特にシリーズ前半において、存在感を放っていたのが、台湾帰りの“俳優兼+アルファ”を志す翔平だ。翔平といえば、マルチタレント思考から俳優、文筆など何でも手を出し、たったひとつのことに縛られることを良しとしない性質の持ち主。それゆえに芯の定まらない人間として捉えられることも少なくなく、実際に住人からも特異な目で見られていたことも。そんな翔平に対する世間の声の代弁者だったのが、バイト先の内装業の現場監督。その時の「おめえ、貧乏なだけで器用じゃねーけどな」という一言は今シーズンを代表するパンチラインであり、視聴者の共感を得たことは間違いだろう。

 しかし、こういった旧来の常識で翔平のことを断定するのは、実は早計だとも言える。現在は、人生100年時代であり、ひとつの肩書きに縛られながら生きていくような時代ではない。スキルを駆使し、フリーランス仕事や副業を通して、一人の人間が一度の人生でいくつもの自己実現を成していく時代なのだ。その観点で見れば、翔平の志向は実に今様で、成功さえしていれば、エンタメ分野に限らずビジネス分野でも注目されるべきライフスタイルを実践しているとも言える。そのため角度を変えて見れば、翔平こそ今、最もモダンなアーバンライフを体現しているのではないだろうか。ここに、東京を舞台にした最先端の青春の1ページがあったと言っても過言ではない。

 そしてもう一人、若者の理想のアーバンライフを実践していると言えるのが、イラストレーターの香織だ。初期メンバー女子の中では、お姉さん的なポジションで本音を言わないキャラという印象だが、人気雑誌のイラストやブランド仕事、個展の成功など、メンバー随一の仕事面での成功者でありながら、モデルまでこなす。そんな彼女は、高学歴かつ一流企業での社会人経験もある完璧なキャリアの持ち主。しかも、カルチャー全般へのも造詣が深く、海外アーティストのTシャツをさりげなく着こなすなど、感度高めで“東京”センスの塊的なライフスタイルを送っているため、上京を夢見るクリエイティブ業界志望のティーンからすれば、憧れでしかなかったはずだ。そんな彼女でさえ、仕事に対してはコンプレックスを抱えている面もあり、それが理由で感情を爆発させるシーンは、華やかな世界のリアルを物語るものでもあった。

 そんな翔平と香織が、初めてデートに出かけたのは三軒茶屋の定食屋だった。東京であれば、代官山に表参道、自由が丘など、探せばいくらでも洒落たところは見つかるはずなのに、あえての三軒茶屋。こういった雑誌の“遊び慣れた東京人がオススメする穴場特集”的なアプローチによって描かれる、“感度高めの東京に暮らすリアルな若者像”は、これまでの『テラスハウス』にはなかったカルチャーな要素だった。

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