連載:2020’s Virtual to Real 第一回:Virtual Being

『紅白』AI美空ひばり、輝夜月、池袋harevutai制作者が考える、2020年の“バーチャル・ビーイング論”

バーチャルビーイングにおける”ニューロン”の重要性 

ーーバーチャルビーイング領域において、それぞれが持っている課題意識とは?

高尾:VTuberの枠組みとして考えたときに思うことなのですが、配信をしたり、キャラクターでMVを作る、みたいなものが多いなかで、「これをVTuberと呼ぶべきなのか」と考えることが多いんです。僕自身がディズニーのようなストーリー性のあるものが好きだということもあって、VTuberに対して「生きている」という感覚をもっと大事にしてあげたいと思うんですよ。MVを作るにしても、選択肢を用意して、その答えによって映像やストーリーが変化したり、成長度合いが変わって初めて生きていると言えるんじゃないかと思っていて。

渡辺:それに関しては僕も思うことがあって。とあるテレビ局の歌番組のスタッフさんから「VTuberって実際どうなの?」と聞かれたのをきっかけに、「地上波の音楽番組にVTuberが出演すること」について考えてみたんですけど、結局、高尾くんがいま話したのに近い結論になってしまって。現場のままだと、VTuberってある種、中に人がいるパペットツールだと思うんですよ。

ーー“魂”と呼ばれる演者と、ガワのキャラクターがある種の主従関係にあると。

渡辺:そうです。演者のパーソナリティをキャラクターという器に乗せて表現していくという関係性は、今のままだと変わらないなと思ったんです。だからこそ、音楽番組に出るのはまだ時期尚早なんじゃないかと思い、そのスタッフさんにも「今ではないと思います」と話しました。ここで出演することは、短期的に見ればいいことなのかもしれませんが、一般の方がそれを見て「パペット」的なものだと感じてしまったり、気持ち悪さを覚えてしまうなら、かえって可能性が潰れてしまうなと思ったので。

ーーでは、渡辺さんはバーチャルビーイングが何を目指すべきだと考えますか?

渡辺:今後は、中のパーソナリティに元となる人がいたとしても、AI化・電脳化されていて、キャラクター自身が考えて発言して動くモデルになっていないと、バーチャルな存在とは言えないと思うんです。

ーーまさに、海外におけるバーチャルビーイングの定義は「キャラクターの魂がAIであること」ですからね。

高尾:その文脈に則っていかないと、アイドル・アニメ的な消費のされ方で終わってしまう気がします。現状も、プロデューサーや演者の意向が透けて見えるVTuberが結構いて、あまりよく思えなかったりするので。

今村:僕もそこには賛成ですね。バーチャルビーイングとデジタルキャラクターの違いって、そういう「中身がいるかいないか」だと思っていますし、将来的には僕らが作ったCGキャラクターに人工知能を乗せて、さらにその2つをつなぐ神経細胞のようなものが生み出されると思うんです。それがないと、自立するバーチャルビーイングにはなっていかないですし、自分たちはその分野でも革新的なものを作っていきたいと考えています。

ーーバーチャルビーイングにおける”ニューロン”の部分ですね。

今村:まさに、ニューロンシステムのようなものをどう作るか、というのが重要です。スマートスピーカーのような会話ができる人工知能がさらに進化したときに、それが魅力的なキャラクターだったら素敵じゃないですか。

渡辺:そうやって必要なものはある程度出てきているなかでも、業界として停滞している部分は確実にあって、文化として呼ぶにはまだ未熟、というのがこのシーンの現状だと思います。具体的には……紅白に出て一般視聴者から批判を浴びないような受け入れられ方をするようになれば、大きなボーダーを越えたといえるかもしれません。

(取材・文=中村拓海/輝夜 月素材提供=(C)Kaguya Luna / Sony Music Labels lnc)

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