空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」第三回(後編)
Maison book girlのワンマンにおいて重要視する概念は? 空間演出ユニットhuezの『Solitude HOTEL』作り方解説(後編)
テクノロジーの進化に伴い発展するライブ演出。この潮流のなかで特異な存在感を示すのが、「フレームの変更」をコンセプトに掲げる空間演出ユニット・huez(ヒューズ)だ。ライブ演出における “光”の専門家が集まるユニットで、アーティストの物語に寄り添った演出を得意とする。
本連載「3.5次元のライブ演出」ではhuezのメンバーを迎え、先端技術のその先にあるライブ体験の本質的なキー概念について、具体的な演出事例を交えながら語ってもらう。
今回は前回(https://realsound.jp/tech/2019/12/post-463300.html)に引き続き、ニューエイジ・ポップ・ユニット・Maison book girl(通称・ブクガ)のワンマンライブ「Solitude HOTEL」を取り上げ、同ライブの演出におけるhuezの役割について、ステージディレクター・演出家のとしくに氏、VJ・LJ・ステージエンジニアのYAVAO氏、レーザーデザインを中心に担当するYAMAGE氏に話を伺いながらその視座に迫る。(白石倖介)
「絶対大丈夫」は無条件で信じよう
ーー「5F」から半年後、2018年11月に「Solitude HOTEL 6F」が開催されました。この公演ではアルバム「yume」をモチーフに、1日に昼の部(hiru)と夜の部(yoru)の2公演が行われました。昼と夜でセトリが変わり、2つの対比が面白いライブでしたが、制作はどのように始まったのでしょうか。
としくに:「ニューアルバム『yume』を引っ提げて、1日に2公演やりましょう」という概要は5Fの段階で決まっていました。hiruとyoruでセトリを変えて明暗を見せていくっていう、わかりやすいコンセプトのライブだったと思います。あと、最初から「公演中に衣装を変えたい」というオーダーがあり、衣装チェンジが全体を通したコンセプトのフックになっている公演でした。
YAMAGE:最初はプロデューサーのサクライケンタさんと、メンバーのコショージメグミさんを交えて、楽曲のセットリスト決めもhuezの事務所で一緒にやりました。hiruはMCもあり、明るい曲もあり、比較的5Fに近いアイドル的なライブをして、その分トリッキーな演出はyoruに集まっていきました。
YAVAO:6Fは僕らも交えてセトリを一緒にがっつり組んで作りました。コンセプトには「昼・夜・夢」というシーンの違いがあって、そこはすでにサクライさん・コショージさんの方で決まってて、そこに対して演出プランを提案しながらセトリも作っていく、という感じでした。ライブ全体の”ルール”もわかりやすかったです。
hiruでのhuezの演出としては、前半はほとんど照明さんにお任せしていて、生っぽい色でライブ映えするような照明をお願いしました。セトリとしても「cloudy irony」や「snow irony」の様な盛り上がる楽曲を前半に持ってきています。後半からhuezの色味を出して、段々とyoruへの布石になっていくような作りにしました。
としくに:hiruはブクガの皆さんも結構明るいテンションで、結構ゆるいMCというか、お客さんと近い距離感のMCをするターンがあって、これは「Solitude HOTEL」では初めてのことだと思います。本当に表裏公演じゃないですけど、白黒はっきりつけた公演にはしようと。hiruは王道っぽく作ることを意識していましたね。
暗転後の後半では機材も盛り込んでhuezらしさを出せたと思います。暗転後「狭い物語」が始まるんですが、この曲はビジュアルも曲調も盛り上げられる曲で、暗い真っ赤な舞台で歌が続いて、最後のサビで白いサスがあたって、ラストにはバン!と青空になるっていう演出を入れました。この曲の後でさらに、音ハメレーザーが冴える「言選り」が続きます。
YAVAO:この時の「言選り」ではあんまり見たことがないような表現ができたと思っていて。舞台をビデオカメラで撮影して、その映像を背景に投影すると、合わせ鏡みたいに舞台上に無限の奥行きが出て、しかもそこにレーザーを当てると、レーザーの光の線が残像として残って、反射して奥に進んでいくような絵になるんです。ライブ全体の中でもわかりやすいピークを作れたと思っています。
としくに:その後「十六歳」を挟んで「karma」が入るんですが、ライブ演出でどうしてもミニマルに見えてしまう瞬間を壊せる力がこの曲にはあるな、と思っていて。僕らは「karma」を4Fからやってて、この回ではhuezの集大成が見せられたと思っています。ある意味、構造的に完成している。VJがバリバリ入って、ストロボがバンバン焚かれて、レーザーがビュンビュン。
ーー対するyoruではセトリもがらっと変わって、huezさんの演出比重も増えたように見えました。
YAVAO:yoruは序盤から「huezゾーン」が詰まってた。hiruとリンクする部分もたくさん作りました。
YAMAGE:たとえば「karma」では別途撮影した映像をyoruで使ったりしてます。
としくに:昼に行ったリハーサルの「karma」を録画して、その映像を投射しました。同時に会場を撮影しているカメラの映像にスイッチしたりして、後ろに映ってるブクガのメンバーが、生で撮影しているものなのか予め用意した映像なのか分からない、という演出ができました。ブクガに限らずダンスアクトって、基本的に毎回ほぼ完璧に同じ動きになるので実現できた演出です。ここはかなりhuezの作家性を出せた部分でした。
YAMAGE:hiruの「言選り」で使った演出をyoruは「faithlessness」で使っていて、「karma」でも同じ演出かな、と思って見ていると時々録画が挟まるので、なおびっくりします。hiruとyoruでは衣装も違いますし。あとでSNSを見たら「これどうなってんの!?」みたいな反響があって嬉しかったです。
としくに:あとは「rooms」ですね。もともとこの曲にはサビとCメロで舞台が真っ暗になる、完全に照明が暗転する演出があるんですけど、hiruは通常通りの演出で、yoruはその明転部分と暗転部分を真逆にする、っていう“逆rooms”をやりました。これはサクライさんのアイデアです。
真っ暗な時間がめちゃくちゃ続くので演出としては正直不安で、サクライさんに確認したんですが「絶対大丈夫だからこれはやろう」と。僕らはアーティストさんを信じるので、不安はあるけれどやってみよう、見てみようと。そうしたら、やっぱり成立するんですよね。僕はこの時またひとつ信用したんです。サクライさんとかコショージさんとかが言ってる「絶対大丈夫」は無条件で信じようと思ったんですよ。むしろガンガン背中を押そう、100パーセント信じよう、と思えた。そういうきっかけになった演出ですね。
ーーhiru、yoruともに楽曲セットリストの制作段階から深いコミュニケーションを重ねたことで実現した演出が多々あったように思います。演出素材の制作などはどのように進んだのでしょうか?
YAVAO:6Fに関しては5Fに引き続きTouch Designerで作った映像素材をたくさん使ったので、そういうのは随時、上がったものからサクライさんにバンバン共有してました。ド深夜に素材をお送りしたら「あ、サクライさん起きてた」みたいなこともあります。
としくに:ただ、どうしても制作が佳境に入ってくると「ここまではやろう」「ここに手を付けると今からでは間に合わない」みたいなゾーンに入ってくるので、そういう時間とクオリティのバランスは僕が見るようにしています。そこはサクライさんにも理解していただけているので、「当日までにいかにクオリティを上げるのか?」という本質にフォーカスできます。
当日の話をすると、2つの公演を1日で行うため仕込みが多くて大変でした(笑)。当日の0時に会場入りして、24時間会場にいました。舞台監督さんが入ってくれたのはありがたかった。ガッツリ仕込んで、全く違うワンマンライブを2本やるというのは初めての経験で、着席とスタンディングで客層も少し分かれて、そういうことが知れたという意味でも勉強になりました。あとはサクライさん、コショージさんに空っぽの舞台で照明を見せる、テクリハ的なやつを6Fからはじめました。ゲネプロとは別の「光を見る時間」を独立して作ったことで、かなりイメージの共有が楽になりましたね。これは今に至るまで継続しています。この公演で、現行の制作フローがほぼ固まったという感じです。