『パワプロ』楽曲が持つ“パワプロらしさ”の源泉とは? サウンドディレクターに聞いてみた

『パワプロ』楽曲が持つ“らしさ”を聞く

 KONAMIが手がける人気野球ゲーム『実況パワフルプロ野球』(以下、パワプロ)シリーズが、発売25周年を記念して、12月15日(大阪)と12月21日(東京)にそれぞれシリーズ初となるコンサート『実況パワフルプロ野球 25周年記念コンサート』を開催する。

 ウインドオーケストラ+バンドの特別編成でこれまでの楽曲を演奏する、ファンにとっては堪らない同公演。リアルサウンドテックでは、『パワプロ』シリーズのサウンドディレクターを務める渡邊紀如氏にインタビューを行い、「パワプロ」シリーズの主題歌やBGM、クリエイターとしての音楽遍歴、コンサートに向けての準備などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「中学校で、先生がハービー・ハンコックとマーカス・ミラーのビデオを……」

渡邊紀如氏

ーーそもそも、渡邊さんはどのようにして、ゲーム音楽クリエイターの道へ進むことになったんですか?

渡邊紀如(以下、渡邊):単純に幼少期からゲーム好きで、ゲーム音楽に惹かれていたのが大きいです。小~中学校時代も、当時からプレイしていたゲームのサウンドトラックを買ったり、コンポーザーの方を調べたりして。

ーー渡邊さんはバンド活動も行っていましたが、音楽を始める前からゲーム音楽が好きだったんですね。

渡邊:そうですね。バンドを職業にして食べていきたいと思いつつ、就職という形を取るなら、ゲーム音楽を作りたいと考えていて。ゲーム関連の雑誌や記事を見ても、ゲームクリエイターさんのインタビューはいつもどこか楽しそうで、「良いなあ、面白そうだなあ」という憧れがあったことも大きいですね。

ーーバンドの楽曲を手掛けつつ、ゲーム音楽のようなものも作っていたんですか?

渡邊:そうなんです。5つ上の兄がバンドや作曲をしていたこともあって、機材周りの環境が家にあったんですよ。あと、父がピアノの調律師をやっていたので、グランドピアノもあって。なので、小学生くらいから曲作りを始めて、中学生くらいになるとMTRとTRINITYみたいなオールインワンシンセを使ったりしていました。そういう意味では環境に恵まれていたと思いますね。

ーーゲーム音楽が好きだったとのことですが、どんな楽曲に影響を受けたんですか?

渡邊:幼少期はすぎやまこういちさんや植松伸夫さん、岡素世さんなどが作られた楽曲を好んで聴いていました。それ以外の楽曲からも挙げきれないくらい影響を受けています。

ーー逆に、ゲーム音楽以外の分野だとどうですか?

渡邊:バンドをやっていたということもあって、ロックも好きなんですが、個人的なルーツはソウル、ファンク、ヒップホップ、ジャズといった、ブラックミュージックをルーツとした音楽なんです。個人的には、コード感がジャジーなものを、ロックやパンクにどう落とし込むか、ということを考えながら曲を作っています。

ーーソウル、ファンク、ヒップホップ、ジャズの分野でルーツと呼べるアーティストは?

渡邊:中学校の国語の授業で、先生が突然ハービー・ハンコックとマーカス・ミラーのビデオを流してくれたのが、大きな音楽体験として残っています。その授業が終わった瞬間、僕だけが先生に「そのビデオ、貸してください!」ってお願いして、家で擦り切れるほど見たんです。そこで「ジャズってこんなすごいんだ」と衝撃を受けましたし、その後に好きになったジャミロクワイのルーツを辿っていったら、スティービー・ワンダーやハービー・ハンコック、スライ・ストーンと、次々にすごいアーティストが出てきて、彼らに強い影響を受けました。あと、母がポップス好きで、松任谷由実さんや松田聖子さん、山下達郎さんのような70年代くらいのポップスを聴いていたので、そのあたりも僕のルーツになっています。彼ら周辺のミュージシャン……松任谷正隆さんや林立夫さん、松本隆さんもすごく好きなんです。

ーーたしかに、今話してもらったようなアーティストのエッセンスは楽曲に出ていますね。ジャズっぽさをコードの部分で強く感じましたし、ビッグバンドっぽい曲が多いな、とも思いました。

渡邊:ありがとうございます。そんな話をする機会は滅多にないので、匂いを嗅ぎ取っていただけてたのなら嬉しいです(笑)。

ーー渡邊さんは2009年からパワプロシリーズに参加していますが、歴代の楽曲を聴いたうえで、シリーズの楽曲についてどういうイメージを抱いていましたか?

渡邊:入社前の表層的なイメージでは、ファンクや、T-SQUAREのようなJ-FUSIONが土台なのかもしれない、と思っていました。KONAMIには「コナミ矩形波倶楽部」(コナミのサウンドチーム内で組まれたバンド)という文化もあったので、その流れもあったのかなと。

ーー実際に現場に参加してみて、どのように印象が変わりましたか?

渡邊:多種多様な曲がありましたし、とにかく曲数が多いな、と思いました(笑)。よく「パワプロってメニューや各モード、応援歌くらいでしょ?」なんて言われるんですが、蓋を開けると最新のタイトルでは180曲超が使われているんですよ。あと、すごく印象に残っているのは「ディレクションによってメロディーってこんなに変えられてしまうんだ」ということですね。今思えば「変えてよかったな」というところばかりなんですが。

ーー鼻っ柱を折られたような時期でもあったと。

渡邊:そうですね。僕が入った時にはすでに15年の歴史を紡いできたゲームだったので、そこをしっかり踏まえた形で作らないといけなかったんです。

ーー歴史に裏打ちされた制約を守りつつオリジナリティを出していくというのは、かなり難しいことだと思います。

渡邊:入社時は「爪痕を残そう」「新しいことしてやろう」という思いが強かったんですが、かなりリテイクをされた時期を経て、トライ&エラーを次々に重ねていくうち、自分と『パワプロ』を折衷できるようになってきました。なんというか、考え方としては「ここはパワプロっぽくしてここは遊んでOK」みたいなものの線引きができるようになってきたというか。自分の中での判断基準が生まれたからこそ、尖らせる箇所と丸くする箇所のバランスが取れるようになってきたんだと思います。

ーーその中で明確に転機となった楽曲は?

渡邊:2012年に主題歌を初めて任されたんですが、紆余曲折があってムービーの方向性を変えることになり、ゼロから作り直しになったことがあったんです。あまり時間がないのに、そこから曲が生まれずに四苦八苦してしまって、アレンジを手伝っていただいてようやく完成したんですが、自分一人で完結できなかったという悔しさが大きかったんです。その経験を踏まえて「こうすれば良かった、次はこうする」と次々に紙へ書き出して、次からの仕事に活かしていったんですが、結果的にその悔しい思いがあったからこそ、今の自分があるんだと思います。

ーー逆に嬉しかった、手応えを感じたのはどの楽曲ですか。

渡邊:ある程度「よくやった」と思えたのは、『実況パワフルプロ野球2016』の主題歌「Never-Ending Tale」ですね。2015年は『パワプロ』の新作が出なかったこともあって、ファンのみなさんをお待たせした分、絶対に良いものを作らなければいけない、というムードがチーム全体に漂っていました。それに、このタイトルから、現在のシリーズまで人気のモード『パワフェス』や、人気キャラ『熱盛宗厚』が生まれたり、サクセスが20周年というタイミングでもあったので、オープニングに入れなければいけない要素も結構多かったんです。そういった要素を踏まえてオープニング曲を作ることができたうえ、ユーザーのみなさんからも好意的な反応を今までで一番多くいただけたので、自分にとって一番手応えを感じた楽曲になりました。

ーー押さえなければならない要素が多かったのに、結果的に一番反響のある曲になったと。

渡邊:そうですね。ユーザーのみなさん以外でも、社内でかつてパワプロシリーズの音楽を作っていた先輩社員から「特に用はないんだけど、今回の主題歌、すごくよかったよ」と言っていただけて。よくよく聞くと、その先輩もかつて、他のチームの先輩から「用はないんだけど、オープニング曲がすごく良かった」って言われてたみたいで(笑)。

ーー歴史を感じる良い話ですね……。先ほど、自分の個性とパワプロっぽさを折衷することができるようになったというお話がありましたが、その“パワプロっぽさ”をあえて言語化するなら?

渡邊:よく先輩方から言われていたのは、「とにかくキャッチーにしよう、口ずさめるような覚えやすいメロディを作ろう」ということですね。ゲーム音楽はループするので、覚えやすく印象に残りやすいものが良いとされている場合がありますが、パワプロはそれにマッチする場面が多いのかなと。加えて、僕の中で言語化するならば「シリアスになりすぎないこと」なのかもしれません。真面目に作りすぎてしまうと、やはりパワプロっぽくないな、と思うことが多いんです。パワプロって2頭身のキャラクターで、明るめのデザインだからこそ、暗かったり後ろ向きな音楽はあまり受け入れられないというか。もちろんそういう曲もあるんですが、遊びを入れて中和したりもします。

ーーこれまでの渡邊さんが手掛けた曲を改めて聴き直したのですが、ジャズ・ファンク的な要素のほかに、ビート・リズムを肝にしたアプローチがすごく多いという印象を受けました。

渡邊:僕がもともとドラムをやっていた、ということもあって、リズムが気持ちよくなるように工夫しているところはあります。ノリの部分は重要視することが多いですね。

ーーギターがチャキチャキ鳴ってる曲でも、ダブステップっぽくシンセが鳴っている曲でも、リズムのグルーヴ感が耳に入ってくるんですよ。ゲームの要素的にも、気持ちが高揚してきてプレイがノッてくる、みたいなこともあるのかなと。

渡邊:熱くなりたい場面や気持ちよくしたい場面は、音楽で気持ちを後押ししようと思って作っているので、そう感じていただけてたのなら嬉しいです。

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