kz(livetune)が考える、VTuber文化ならではの魅力「僕らが10年かけたことを、わずか2年でやってる」

kzが語るVTuber文化の魅力

 「笑い男」とVTuberの共通点

――それ以降、kzさんが観てきた動画/配信の中で、特に好きなものを教えてください。

kz:委員長と本間ひまわりさんの「百物語配信(百個怖い話言うまで帰れない放送2019)」ですね。これを薦める時点で「アーカイブを12時間観てほしい」ということになってしまいますけど……。でも、ひとつひとつの怖い話のクオリティが高く、各所に挟まれる伏線も含めて全編面白い配信でした。去年の委員長の「百個怖い話言うまで帰れない放送」も面白かったですけど、今年の「百個怖い話言うまで帰れない放送2019」は構造がすごいことになっていて。その配信が、9月5日の体を取り戻す配信(「【癒し】私と一緒にお話しましょう♪【雑談】」)に繋がっていく一連の流れもものすごいと思いました。

――「VTuberをVTuberたらしめているのは、魂なのか、ガワなのか、それともまた別の何かなのか……」という、VTuberという枠組み自体を遊ぶような実験的な企画でした。

kz:たまごまごさんのブログ(http://makaronisan.hatenablog.com/)でも説明されていましたが、「Vって一体なんだ」という話になったとき、やっぱり笑い男(『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に登場するハッカー)の存在がすごく近いと思うんです。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の9話で、未来の2chのようなチャットの回がありましたけど、いわばミームの集合体のように、「僕ら視聴者や周囲の人々の勝手なイメージ」と「魂/個人の自意識」と「ガワ」の3つが混ざったものがVTuberだと思っていて。よく「Vにとっては魂が一番重要だ」という話になりますけど、あの配信を観た人たちは、「それだけでもないんだな」って気づいたと思うんですよ。本当の笑い男がどんな人物かは分からないけれど、周囲の人たちが勝手に「笑い男はクールだからこんなことはしないだろう」「でも泥臭い部分がある」とイメージすることで設定が加わっていくように、見られる側の勝手な妄想/イメージも含めて人間、そしてそれを自分でも気づかないうちに演じているのかもしれないということを改めて考えさせられたというか。そういう意味でも、僕は「百物語配信」が断トツで面白かったです。

 しかも、委員長が「そういうことを考えている」ということも、僕らの想像でしかないんですよね。そういえば、同じようなことを、樋口さんが言っていることがありました。樋口さんが(2019年1月に行なわれた1stライブ)『KANA-DERO』のMCで「みんな考察好きだよね」と言っていて。それってつまり、僕らが考える樋口楓像のようなものを、本人も意識しているのかもしれないし、それが自分に混ざっているのかもしれないし、でも本当の樋口さんがどうなのかは僕らにはわからないし――。その曖昧さが面白いな、と思います。

――ライバーとして活動している方々の場合、リスナーと日常的にコミュニケーションを取っているからこそ、よりそう感じる部分があるのかもしれません。

kz:日頃からコメントを通して交流しているからこそ、そこから何か影響が生まれているのかもしれないな、と思います。あと、僕はVTuberにとって興味深いのは死生観の話だと思っていて。去年『ユリイカ』の「バーチャルYouTuber」特集で(届木)ウカ様と委員長が対談したときに、コーナーの扉を確かウカ様が描いていたと思うんですけど、そこで2人が掲げているのが「memento mori(死を思え/死を忘れるな)」でした。VTuberの方々であっても、どこかでいつかは終わることを考えていたり、終わりについての話をしたりする人がいる。それはつまり、バーチャルではあるけれども、「永遠じゃないからこそ輝ける今がある」ということでもあるんだと思います。

――他に、バーチャルな人たちならではの魅力を感じた瞬間はありますか?

kz:あとは……椎名唯華さんや鷹宮リオンさんのように、「どうやって今まで実社会で暮らしてたんだろう……」みたいな人たちが面白さを発揮できるところですかね……。

――(笑)。椎名さんや鷹宮さんは、本能に正直な雰囲気がとても魅力的な人たちですね。

kz:そんなふうに、「もしかしたら、Vじゃなかったら許されないんじゃないかな?」と思う瞬間ってあると思うんです。同じテンションで同じことを言っていても、実写だと現実感を伴うものが、Vというクッションを挟むことによって、ハチャメチャなアニメキャラのようになるというか。僕らがそんなふうに錯覚しつつ、ご本人のメチャクチャさが合致して面白いバラエティになるというのは、人間性があるようでない、それが浮遊しているバーチャルな存在ならではなんだと思います。

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