YouTuberはなぜ「休み」を宣言するのか? 毎日投稿の重みと変わりつつある“労働環境”

 メインチャンネルの登録者数470万人を超える人気YouTuberグループ・東海オンエアが9月23日、サブチャンネルにて『【予告】東海オンエアはお休みをいただきます』というタイトルの動画を公開し、話題を呼んでいる。

【予告】東海オンエアはお休みをいただきます

 はじめに断っておくが、「お休み」といっても数か月や数年単位、あるいは無期限活動休止のような重い話ではない。彼らの言う「お休み」とは、わずか一週間程度。社会人にとっての年末年始休暇、ゴールデンウィークと同じレベルのリフレッシュを目的としたものだ。しかし、それでも東海オンエアのメンバーは「うれしい!」「震える!」などと大喜びしていた。彼らは冗談めかして「YouTubeでの活動も遊んでいるようなもの」と言うが、トップYouTuberにとって「休み」がどれほど貴重なものかうかがい知ることができる。

 YouTuberに詳しくない方は、自由な気ままな職業なんだし、わざわざ動画で報告せずに休んでもいいのでは、と思うかもしれない。しかし、5月にはおるたなchannel(チャンネル登録者数233万人)とアバンティーズ(チャンネル登録者数161万人)が、6月には北の打ち師達(チャンネル登録者数112万人)がやはり、動画で「お休み」を宣言している。その背景には、動画の視聴が習慣化しているファンへの配慮とともに、「毎日投稿」やそれに準じた動画の更新頻度が彼らにとって極めて重要で、「休む」ことが勇気のいる決断になっている、という事情がある。

 生き馬の目を抜くYouTuber業界において人気を獲得し、それを維持するためには、YouTube全体で日々膨大な数がアップされる動画に埋もれないためにも、更新頻度を高く保つことが有効だ。チャンネルを複数持っているクリエイターは、1日に2本、3本の動画を投稿することも珍しくない。この「毎日投稿」への葛藤は、チャンネル登録者数120万人のYouTubeチャンネルを運営するオリエンタルラジオ・中田敦彦も、カジサックことキングコングの梶原雄太のチャンネル「カジサックの部屋」にゲスト出演した際に語っている。

 中田はチャンネル立ち上げ当初、一足先にYouTuberデビューしていた梶原に倣って毎日投稿を志向していた。しかし、歴史や文学、政治、経済に至るまで広範囲にわたる知識を講義形式で伝えるチャンネルの性質上、事前の勉強に丸一日がつぶれてしまうことも多かったという。そして、「このままではYouTube以外の業務が全部できなくなる」と危機感を募らせ、泣く泣く投稿頻度を減らしたそうだ。

 中田のような知識のインプットを必要とするチャンネルでなくても、YouTuberにとって「毎日投稿」の負担は凄まじい。YouTuberは基本的に企画、出演、撮影、編集までを、すべて自分たちでまかなっている。むろん売れっ子になれば、仮面YouTuber・ラファエルのように編集や撮影などを専属のスタッフに任せるケースもある。が、それでも自身の納得がいく面白い動画にしようと思えば、完成するまでの多くの工程に携わる必要がある。

 とりわけ「編集」に関しては、今ではだいぶ薄れたものの、「自分で編集している」ことこそ価値のあることだと、YouTuber界隈で見なされる傾向があった。彼らはただの「出演者」ではなく、「動画クリエイター」なのだ。クリエイターならば、動画制作における重要なプロセスの一つである編集にこだわってナンボ……という風潮が広がるのも、むべなるかなというものだろう。このように、たった数分の動画でも出来上がるまでに膨大な時間を要し、それを毎日繰り返すとなると、精神的にも肉体的にも滅入ってしまうことは想像に難くない。どんなにベタなものでも、動画にして視聴されるような企画を1年365日分、考え続けることができるか……と想像してみると、それだけで気が遠くなる人は多いだろう。

 そんな働きすぎなYouTuberたちに異を唱えている一人が、誰あろうヒカキンだ。ヒカキンは2017年8月に自身が運営するYouTubeチャンネル「HikakinTV」にて、トップYouTuberであるはじめちゃちょーとフィッシャーズ・シルクロードをゲストに迎え、『ぼくたち、休みます』というタイトルの動画を上げている。動画の中でヒカキンは、毎日投稿が当たり前となっている現状を「普通ではない」と指摘。そのうえで、自身が動画クリエイターになるきっかけになったアメリカの超大物YouTuber、ミシェル・ファンの言葉を紹介した。

ぼくたち、休みます

 その言葉とは「好きな時間に寝て、好きな時間に起きて、好きな時に動画を撮るのがYouTuber。自由こそがYouTuber」というもの。講演会で耳にしたこの箴言に心を動かされ、当時スーパーの店員だったヒカキンはYouTuberになろうと決心したそうだ。

 動画の中でヒカキンは「毎日投稿が基本という基準を作ってしまった自分たちトップ集団のYouTuberこそ休むべき。そうすれば、他のYouTuberも休むようになる」という旨のコメントをしていた。この発言に触発されてかどうかは定かではないが、上述のように、「お休み」を宣言するYouTuberは少しずつだが増えている。

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