YouTuberの動画時間、なぜ年々長くなる? 人気チャンネル5組の動画より考察
「YouTuberの動画」と聞いて、みなさんはどんなものを思い浮かべるだろうか。かつて流行した「メントスコーラ」や「スライム風呂」など、企画やビジュアル自体にインパクトがあり、5分前後で気軽に視聴できるものを想像する人も少なくないだろう。しかし最近では、人気YouTuberでも10分を超え、場合によっては30分、1時間という長い動画を投稿するケースが目立っている。
それはなぜなのか。まずはこの素朴な疑問を解決するため、日本におけるマルチジャンルのトップYouTuberを対象として、その動画時間の変遷を追う調査を行った。
対象として、2019年8月現在、チャンネル登録者数の多いクリエイターで、かつ長期的に活動し、動画投稿本数も多い、「はじめしゃちょー」「HIKAKIN TV」「Fischer’s-フィッシャーズ-」「東海オンエア」「水溜りボンド」の5組を選出。各クリエイターの年間再生数上位50件の動画から、各年の動画時間における平均値を算出し、2015年以降の数値をデータ化した。なお、2019年は1月1日から8月28日までの動画を対象とし、長時間の生放送アーカイブなど、イレギュラーな動画は除外して計算を行なっている。調査結果は、以下の通りだった。
2015年から2016年の間ではどのクリエイターも動画時間はほぼ横ばいとなっているが、2017年に向けて動画時間が長くなり、それ以降、現在に至るまで伸び続けていることがわかる。次に、同じデータを用いて年間再生回数上位50件中、10分以上の動画は何本あるかを調査した。
2016年まではどのクリエイターも再生時間が10分を超える人気動画は一桁台だったが、2017年になると特にヒカキンとフィッシャーズが激増。水溜りボンド、東海オンエアも2018年に急増していることがわかる。特にヒカキン、東海オンエアにおいては、2019年は人気動画の大半が10分を超えるものだった。長時間の動画は、視聴者にも受け入れられていると言えそうだ。
これには、年を経るごとに各クリエイターに固定のファンが増えたことも大きく影響しているだろう。つまり、初見でもストレスなく楽しむことができ、拡散されやすい短時間の動画ではなく、ファンがじっくりと見られる動画の需要が増え、高い再生数が期待できるようになったことも大きいはずだ。また、YouTubeというプラットフォームのアルゴリズムとして、長時間の動画が「おすすめ動画」としてレコメンドされやすく、結果として拡散しやすいという議論もあり、こちらを意識しているクリエイターも少なくないかもしれない。
一方で、2016年から2017年にかけて動画時間が大きく伸び始めた、という調査結果を見るに、この期間にYouTubeの動画広告として「バンパー広告」が導入されたことも少なからず影響していると思われる。バンパー広告とは、ユーザー側でスキップすることはできないが、最長で6秒と時間を短く設定することにより広告をストレスなく最後まで視聴させるもの。ユーザーは視聴する動画に対して表示される広告の割合が大きくなるほど煩わしさを感じるもので、スキップできない動画広告を複数回挿入して収益を上げるには、「長時間の動画とバンパー広告を組み合わせる」というのは理に適っている。
また2017年には、「トップYouTuberは毎日投稿が当たり前」という風潮と、それによりクリエイターに過剰な負担がかかっている状況に一石を投じる形で、ヒカキン、はじめしゃちょー、フィッシャーズ・シルクロードの3人が、『ぼくたち、休みます』と題したコラボ動画を公開したことが大きな話題になった。現在では700万再生を超えているこの動画により、無理な毎日投稿を避け、きちんと休息を取るべきだ、という機運が高まり、量より質を意識した動画作りが行われるようになった結果として、動画時間が伸びてきたという側面もあるかもしれない。