『スパイダーバース』は写実の呪縛からCGアニメを開放するーー革新性手法に込められたメッセージを読み解く
手法にメッセージが宿っている
例えば、ゴッホの激しい色使いそのものが彼の情念の現れであったように、本作もその手法や技術そのものにメッセージが宿っている。
本作の主人公マイルスは、プエルトリコ人とアフロ・アメリカ人のミックスであるなど、人種的な多様性を称揚する他のハリウッド映画と同様、本作もダイバーシティの価値を謳う作品だが、本作はアニメーションならではの手法でそのメッセージを描いてみせた。
再びインタビューから抜粋するが、フィルとクリスの2人は多様性を技術レベルで実現したのかとの問いに、以下のように答えてくれた。
「媒体そのものがメッセージであり、メッセージは媒体だと思っています。この映画には、いろんなスタイルのビジュアルが入り混じっていて、それ自体が物語とテーマをサポートしているんです。誰もがスパイダーマンのマスクを被ることができる、そこにはジェンダーも人種も文化の違いも関係ない。この映画はそういうことを伝えていますが、いろいろなビジュアルスタイルが1つの映画で共存できるという事自体が、多様性のメッセージになっているんです」
本作は、スパイダーマンたちが異なるユニバースからやって来たという設定だが、そのビジュアルの違いだけで、確かに彼らが全く法則の異なる世界の住人だということがよくわかる。そんな持った彼らが団結して戦うという点が感動的かつユニークな点だが、その多様なスパイダーマン像を示したことが、スタン・リーが込めた「スパイダーマンは誰でもなれる」という本シリーズの核となるメッセージをそのまま後押ししている。
あのキャラクターたちを併存させるために、通常のアニメーション作品では考えられないほどの労力を費やして作られていることもあるが、言葉だけでなく、ビジュアルそのもので語っているからこそ、より深い感動があるのだろう。選択された表現手法と作品全体のテーマが見事に噛み合っているのだからこそ、本作は傑作なのだ。
後期印象派の後、キュビズムやシュルレアリスムを経て、多彩な絵画が生まれたように、本作を境に多様なビジュアルのアニメーションが世界中で生まれるかもしれない。そうなった時、すでに高い評価を得ている本作の評価はさらに高まり、歴史の新しい扉を開いた作品として記録されるだろう。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。
■公開情報
『スパイダーマン:スパイダーバース』
全国公開中
製作:アヴィ・アラド、フィル・ロード&クリストファー・ミラー
監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
脚本:フィル・ロード
吹き替えキャスト:小野賢章(マイルス・モラレス/スパイダーマン役)、宮野真守(ピーター・パーカー/スパイダーマン役)、悠木碧(グウェン・ステイシー/スパイダーグウェン役)、大塚明夫(スパイダーマン・ノワール役)、吉野裕行(スパイダー・ハム役)、高橋李依(ペニー・ パーカー役)、玄田哲章(キングピン役)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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