AIにとっての“自意識”や“感情”とは? 海外文献や実例から読み解く

AIにとっての“自意識”や“感情”とは

意識とは何か?

 Pepperは周囲の状態を検知して、それに対応した脳内分泌物質が分泌することで人間のような“心の動き”を作り出しているそうだ。しかし、人間のような「感情」を表現するだけでは、ロボットが自身の感情を自身のものだと認識し、「意識」を持っているとは言い難い。

 Live Science誌のシニアライターMindy Weisbergerによると、ロボットを本質的に人間に近づけようとするならば、その「脳」は私たちと同じくらい複雑な情報処理能力を持つだけではなく、自己を認識する「(自)意識」が必要になってくるという

「意識」の量を測定可能にする「意識の統合情報理論」

 デカルトの有名な命題で「”cogito ergo sum”(我思う、ゆえに我あり)」というものがある。彼は『方法序説』で、自身がなぜここに存在するのかと考えること自体が、自身が存在することを証明すると説明した。続く数百年の間、さまざまな分野の学者が「意識」の定義を探求しつづけたが、今だに一つの答えは見つかっていない。無数にある「意識」の定義の中から、神経科学の視点から捉えようとした取り組みを二つほど紹介したい。

 神経科学者のGiulio Tononiは、意識の発生を説明する「意識の統合情報理論」を提唱した。この理論によれば、意識体験とは単純化できない多様な情報が統合されていることの象徴であるという。

 例えば、一般的な視覚を持つ人が目を開くと「モノクロの景色を映す」「左側の視野のみ認識する」など、選択的に世界を見ることは不可能だ。意識の統合情報理論では、脳は感覚神経系と認知過程より複雑な情報をつなぎ合わせていると考え、統合された情報の量を定量化、その量が多いほど「意識の量」が多いとされる。この仕組みのメリットは、人間や他の動物との間で意識の度合いの違いが存在することが説明できることだ。

 しかし、この理論によると、AIによってシミュレートされた生成物はどんなに人間の考え方に似ていても、必然的に「意識」として認識されることはない。それはコンピュータで天気を予想できても、実際に雨が降っている状態を作り出すことはできないようだと、アレン脳科学研究所の最高科学責任者であるChristof Kochは説明している。

意識をコンピュータメモリのように捉える「グローバル・ワークスペース理論」

 一方で、神経生物学者のBernard Baarsは、「グローバル・ワークスペース理論」で「意識」は過ぎ去った記憶の呼出・保存・処理などができる、コンピュータメモリのような動きをするものだと提唱した。彼の理論によると、記憶が保存されているメモリーバンクから情報を引き出し、脳内に散布させる行為が「意識」を指すと考えられる。

 グローバル・ワークスペースにはメモリーバンクの記憶がロードされ、さまざまな認知機能が自由にアクセスして処理することができる。そのため、「ワークスペースにロードされた」=「意識にのぼっている」情報の処理は、無意識の情報処理に比べて有用だと考えられる。

 その後、Baarsは「グローバル・ニューロナル・ワークスペース理論」を提唱し、脳科学的に検証できるように理論を発展させた。この理論では、意識にのぼっている情報について、広く分布したニューロンの集団からなるグローバル・ワークスペース内の情報であると定義。これにより、意識にアクセスできる情報とアクセスできないものが脳内に併存する理由や、意識にまつわる脳活動の特徴や、それが行動にどのような影響を与えるか、などが網羅的に説明できるようになった。

 さまざまな理論が提唱される中、どれが正しいのかは答えが出ていない。しかし、一つだけが正しいということではなく、複数の分野にわたる理論の組み合わせにより、「意識」というものが何か、将来的に解明されるのかもしれない。人間や他の生物の「意識」を理解することで、今は「生きている」とは言い難い無生物に意識を与えられるのではないかと筆者は考える。

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