バの音楽事情
「バの音楽事情」第8回 キズナアイ、ミディ、かしこまり……バーチャルYouTuberと音楽の関係性を考察
歌ってみたがメインストリームへ
バーチャルYouTuberが音楽と最も気軽に交わることができるのは「歌ってみた動画」に他ならない。この連載ではあえて歌ってみたの動画は紹介していないが、歌ってみたの流行がバーチャルYouTuberを「音楽特需」の状況へと押し上げたのは間違いないだろう。そしてその中には「歌うま系バーチャルYouTuber」の活躍がある。とりあえず筆者が印象にあるのは『かしこまり』と『YuNi』である。
両名とも、歌を軸に活動するバーチャルYouTuberであり、特にかしこまりに関してはその走りと言ってもいいだろう(酒飲みバーチャルYouTuberの走りでもあるが)。この二人には面白い違いがあり、「かしこまり」はあくまでもYouTuberであるのに対し、YuNiは「バーチャルシンガー」として活動している。この違いはチャンネルにアップロードされている動画にも如実に表れており、かしこまりは歌ってみた動画以外にもゲーム実況など様々な動画を投稿しているが、YuNiはほぼ全てが「歌」の動画である。このことから、バーチャルYouTuberはすでに「YouTuber」の文脈に囚われない方向へとシフトしていることがわかる。YouTubeというプラットフォームから逃げきれていないのもまた事実ではあるが、いちアーティストやタレントとしての認知を目指しているバーチャルYouTuberが増えているのは間違いない。
また歌ってみたに関して、『田中ヒメ』と『鈴木ヒナ』の活躍にも触れておきたい。
元々は歌うま系でもなんでもない、YouTuberとしての活動が多かったヒメヒナだが、この「劣等上等(ギガP)」のカバー動画は現時点で450万再生を超えており、聞くところによれば「バーチャルYouTuber」という括りの中で最も再生されている動画らしい。実際に動画を見てみればその理由もわかると思うが、ただ単に「歌う」だけでなく、ダンス、編集、アレンジなど、「バーチャルYouTuberという付加価値」が詰め込まれている。筆者は元々あまり「歌ってみた」には興味を示していなかったが、既存の広く知られた楽曲に彼女たちなりのオリジナリティを組み込んで披露する手法はバーチャルYouTuberの活動として非常に正しいものを感じた。
次回はバーチャルYouTuberの世界における「歌ってみた」のブームから、現在の音楽事情に至るまでの経緯を考察していきたいと思う。
■じーえふ
1995年生まれ。大学中退フリーター。バーチャルYouTuberに真剣。