『THE QUIET MAN』レビュー:プレイヤーの作品に対する見方を問う、唯一無二の”問題作”

様々な限界を知ることになる、”神の視点”からの二周目

 先述の通り、二周目では音楽・台詞・字幕による情報が追加される。憶測でしかなかった人物相関、事件の経緯が一通り明らかになるのだ。

 つまるところ、この二周目はデインではなく、プレイヤー自身の視点で見ることになる。いわば”神の視点”だ。そのため、耳が聞こえないデインには分からない情報を知ることができる。

 明かされる情報はいずれも意表を突くものばかりだ。特に人物相関には思いもしなかった情報がある。きっとこのような関係だろう、と思っていたことが根底から覆されるのだ。また、一周目には無かったシーンも僅かに挿入される。これには「えっ?」となるが、この周回はプレイヤー視点(神の視点)で体験する。だから、存在自体は不自然ではない。

 また、無音で地味だったアクションパートにも打撃音、戦闘曲が追加。一周目よりもアクションゲームらしい手応えを得ることができる。何より、音一つで元の印象が大きく一変する驚きを味わえる。これが本当のリアルサウンド……と言っていいのかどうか。

 だが、このような二周目でも、物語の謎の全ては明かされない。詳細は伏せるが、ストーリーにおける肝心な事柄だけは、この視点からでも情報を得ることができないのだ。

 また、人物相関に驚きの情報があるにせよ、ストーリー自体は特筆すべき出来とは言いがたい。デインと敵対する人物の過去、キーキャラクターである仮面の男の所業に関しては正直、安っぽい。デインがララに執着する理由にも薄気味悪さすらある。更に言えば、一周目を楽しめなかったプレイヤーなら、真相が明かされたところで「そうですか」な感想に終わる。一周目を読み解こうとしたプレイヤーもまた、全てが明かされないことへのもどかしさを味わうことになるので、総じて拍子抜けと言わざるを得ないあろう。

 しかしながら、プレイヤーの視点からでも、物語の全てを理解できず終わるのがとても興味深い。特に一周目、デインの視点でも分からないことが分からないままであるのは、例え文字を始めとする情報があっても人には読み取れないことがある、憶測で語らねばならないことがある難しさを考えさせられる。

 プレイヤー自身が、このゲームにどう向き合ったかで感想が著しく変わるのも興味深いところだ。結局、本作はプレイヤー自身が物語に付き合えば、二周目で明かされる情報の数々に一喜一憂できるし、逆に退屈に感じて嫌々付き合ったのであれば、最終的な評価も悪いままで終わる。ことに一周目の退屈さもあって、そこは露骨に分かれる。

 そして、悪い評価は最終的に世に広まる。昨今であれば、SNSの普及もあって広まるのに時間もかからない。そして実際に本作はリリースから二周目の解禁後まで、SNSを始め、プレイしたユーザーから様々な反応が流れ出ている。率直に言って、好意的なものはごく一部で、全体的には悪評寄りだ。筆者も一周と二周をプレイした身として、一連の感想には共感できる。

 だが、そんな評価を世に蔓延させることも本作の物語の一部だったのではないだろうか。結局、人には音を始める情報が何もない映像からも、それら全てがある映像からも全てを読み取れる力はない。映像だけではなく、文章すら書き手が真に込めた狙いを読み取るのは難しい。そして、時にそれは対象を傷つける力を発揮する。読み取っても、人それぞれ感想が変わる。

 そう言ったプレイヤー自身の物の見方への問いかけ、それこそが本作の物語が目指したことなのかもしれない。当然ながら、これも憶測でしかない。だが、実際に視点の違う一周目と二周目、どちらにおいても判明しない謎、無料アップデートによる答え合わせに象徴される現代特有の仕掛けには、本当にそれを意図したのではと考えられる布石がある。

 正直、一周目の項目で触れた通り、プレイするには相当な気力が要る。大半のプレイヤーは退屈さに押しつぶされるだろう。だが、例えそうあっても二周目をプレイし、その後、世の中に広がる同じ経験をしたプレイヤーの情報を探ってみて欲しい。

 もしもでしかないが、本作が目指したことの片鱗が分かるかもしれない。

プレイヤーの受け入れ方が問われる問題作

 本作が良いゲームなのかと言われたら否だ。悪いゲームと言われても否。どちらになるかは本当にプレイヤーの見方次第となる。

 とは言え、明確な欠点もある。特にアクションパートの「フォーカスモード」を使えるか使えないかで難易度が大きく変わるバランスには難があるし、その解説が一切ないのは、幾ら意図したものにせよ、不親切がすぎる。カメラ操作も左右にしか対応していないため、画面外から敵が消えると、位置を認識できなくなってしまうのも問題ありだ。

 CGに関しても良い出来とは到底言いがたい。質は一昔前のHD機で出回っていたアクションゲーム並で、モデリングも実写側の俳優の再現が甘い。特にララに関しては実写とCGとで別人すぎて、苦笑いしてしまうほどだ。

 中断セーブができず、途中で止めるとチャプターの最初からになるのも不便の極みだ。しかも厄介なことに、終盤にてごく稀に強制終了バグが生じることがある。後にアップデートが入り、頻度は下がったかと思われるが、こういった事故が起きる恐れがありながら中断不可の仕様はストレートに意地悪だと言わざるを得ない。

 他にも二周目で解禁される字幕だが、縁がないことで白い背景に溶け込んで見えにくくなる問題がある。雰囲気を出す意図もあったのだろうが、縁ぐらいは着けるべきだったのではないだろうか。また、切り替えが異様に早い字幕も一部、散見されるのも気になる所だ。

 長々と書いてきたが、結論として万人受けする作品では無い。だが、プレイすれば確実に何かが残る、挑戦的な要素の詰まった内容になっている。貴方はこの物語とゲームをどう受け取るだろうか。理解すべく全力で向き合うか、理解を捨てて怒りをぶちまけるか、或いは深みにはまり、テーマの手がかりを追求し始めるか。

 もし、翻弄されて構わない心意気があるのなら、挑んでみて頂きたい。二つの視点から物語を読み解いてみて欲しい。

 そこから出てきたものに、貴方自身の見方が現れる。

■シェループ 
新旧構わず、色んなゲームに手を伸ばしては積みゲーを増やし続ける人。コソコソとゲームライターとしても活動し始めた。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションが大好物。最近、『スプラトゥーン』のジャッジくんが気になって仕方がない。
Twitterアカウント(@shelloop

■THE QUIET MAN
プラットフォーム:PlayStation®4/Steam®
価格:1,800円+税
ジャンル:シネマティックアクション

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