『THE QUIET MAN』レビュー:プレイヤーの作品に対する見方を問う、唯一無二の”問題作”

 2018年11月1日、スクウェア・エニックスより『THE QUIET MAN(ザ クワイエットマン)』なるゲームがPlayStation 4、PC(Steam)用ダウンロードソフトとして配信された。

【THE QUIET MAN】最新トレーラー

 同社は言わずと知れたファイナルファンタジー、ドラゴンクエストのRPG二大巨塔を擁するメーカーだ。2003年に合併するまで、特に旧スクウェアは1997年から2000年にかけては、看板タイトルに留まらない、異色の作品を輩出し続けた。全てがヒットした訳ではないが、一部の作品は根強いファンを獲得し、今もなおその話題が当時のプレイヤーの間で話題に上ることがある。

 合併以降は時代の移り変わりなどもあり、その頃を髣髴とさせる作品が誕生することは少なくなった。しかし、平成の終わりが刻一刻と迫ってきた昨今、突如、そのような作品が現れる形となった。

 結論から言えば、本作は現代に蘇りし、旧スクウェアの血が通った作品。

 そして、プレイヤーの見方を問う、唯一無二の”問題作”である。

無音の世界を読み解く”シネマティックアクション”

 本作は実写で描写された「ストーリーパート」、3DCGで描写された「アクションパート」の二つで構成される、「シネマティックアクション」を謳う作品。

 物語の舞台となるのはアメリカ・ニューヨーク。ある夜、ナイトクラブ「Club Moonrise」の歌姫「ララ」が、突如現れた「仮面の男」によって誘拐されてしまう。現場に居合わせた主人公の「デイン」はララを救出するべく、男の後を追い、ニューヨークを奔走することになる。

 ゲームは実写のムービー、3DCGのアクションを交互に繰り返し、ストーリーを追っていくのを主とする。「アクションパート」は格闘攻撃主体で展開され、3Dの行動範囲の限定されたフィールドに現れる敵を倒し、前進していく形となる。いわゆるベルトスクロール型の体裁だが、デインができることはパンチ、キック、回避兼カウンター、そして「フォーカス」なる必殺技と少なめで、コマンド技もなく、直感的に動かせる設計となっている。

 また、本作は一部を除き、音楽・台詞・字幕による言葉による情報伝達を完全に排している。そのため、本編で展開されるストーリーは目前で起こっている出来事から推測しなければならない。

 音に関しては完全な無音という訳ではなく、登場人物が喋っている際、その事を連想させるノイズのようなメロディが流れる。アクションパートも基本、音楽も打撃音も流れず、更にはデインの体力と言った画面情報も何ら表示されないが、前者はとどめを刺すとスローモーションの演出が差し込まれるほか、後者は画面全体の色味が変化するので、どのような状況であるかは認識可能だ。

 ただ、得られる情報が映像しかないため、異様な雰囲気が醸し出されている。

 更に本編は約3時間程度でエンディングを迎える。そして、その後に音楽・台詞・字幕が解禁された二周目『THE QUIET MAN -ANSWERED-』が解禁され、推測するしかなかったストーリーに一つの答えが示されることになる。

 この二周目は、リリース一週間後の2018年11月8日に実施された無料アップデートによって解禁され、現時点では一周目からも選択可能になっている。ただ、本作をゼロから楽しむに当たり、一周目は無音と言語情報無しが推奨される感じだ。

 このように映像から推測しなければならない一周目、それを元に答え合わせを行う二周目という、演出も表現方法も異なる本編が収録された内容となっているに加え、無音にアップデートによる情報解禁など、昨今のゲーム特有の機能を活かす挑戦的な仕掛けも盛り込まれた作品になっている。

気力勝負の一周目

 故に本作は非常に人を選ぶ。ことに無音で紡がれる一周目は、冗談も何もなくプレイヤー自身の物語に付き合う気力が問われる。

 そもそも何故、無音なのか。理由は主人公のデイン自身、耳が聞こえないからだ。なので、この一周目は”デインの視点”から物語を追体験していく形となる。

 実質、ノイズしか聴こえてこない一周目で、物語の全容を掴むのは困難を極める。映像があるので、おおよその流れは分かるが、人物相関、事件の経緯などは全て、プレイヤー自身の憶測を元に読み解いていかなければならない。

 そして、無音という環境はプレイヤー自身に大きな負担をもたらす。例えどんな派手なシーンになったところで、盛り上がらないのだ。読み解こうという姿勢で挑んだとしても、である。

 アクションパートも同様に無音なので、敵を打ち倒した手応えは全く得られない。そして、実写パート側の展開をちゃんと追わなければ、戦闘へと至る経緯も分からなくなって、ゲームに流されるがままとなる。

 追い討ちをかけるように、ストーリーも急に場面転換したり、意味深なフラッシュバックが挟まれたりなど、随所で唐突な展開が起きる。こうした場面の数々もプレイヤーの物語への理解を妨げ、非常に大きな負担を与える。

 なので、全編を通して気力が問われるのだ。しかも驚くべきことに、耳が聴こえないとされるデイン、他の人物が喋った内容を普通に理解できる。読唇術を心得ているのだ。このため、彼自身の視点に立って物語を体験しようにも、プレイヤーが読唇術を体得していなければ確実に置いてきぼりにされる。仮に体得していても、英会話ができなければその時点でアウトだ。

 なので一周目は、全てをやり終えた後に大きな苦痛に苛まれることになる。全てを推察しながら終えても、結局「何が何だか分からない」となる。ストレートに言うなら、理解されることを徹底的に拒否した世界なのだ。

 こうも辛いことばかりなら、二周目をプレイする気力も起きにくいのは言うまでもないだろう。だが、二周目は意地でもやるだけの価値がある内容になっている。

 そして、この作品が問いかけたことの片鱗も明らかとなる。

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