AIは“映画の神様”を乗り越えられるか? AIによって作られた映画とその成果を探る
従来、“クリエイティビティ”は人間特有のものであると考えられていた。しかし、近年その前提を揺らがせるようなプロジェクトが次々と登場している。
2017年、ジャンルのカテゴリを選択して曲の長さを指定すれば即座にAIが作曲を行うという楽曲制作アプリ「Amper Music」が4000万ドルを調達して大きな注目を集めた。アメリカのシンガーソングライター/YouTuberのTaryn Southernが2017年に発表した楽曲『Break Free』は、彼女の歌声を除く楽曲のほぼすべての部分が「Amper music」を使って制作され、YouTube上で高い評価を得た。
さらに、AIが執筆した小説が星新一賞の一次審査を突破したり、2018年10月にはAIが書いた絵画が4,800万円で落札されるなど、AIによる作品が高い評価を得るようになっている。
では、いわゆる”総合芸術”の映画に関してはどうか。2016年、『Sunspring』と題された映画が「SFL 48-Hour Film Challenge」という映画のコンテストに出品され、大きな話題を呼んだ。この映画の脚本は、“ベンジャミン”という名前のAIによって書かれたものだ。ベンジャミンは、『Sunspring』の監督であるオスカー・シャープ氏の学友でAI研究者のロス・グッドウィン氏が作り上げた。
彼らはベンジャミンに、『ゴースト・バスターズ』や『フィフス・エレメント』『2001年宇宙の旅』といったSF映画の脚本を読ませ続け、それらをもとに『Sunspring』の脚本を書かせたという。前半はディストピアもの、後半は不条理劇と化すこの短編は驚きと高い評価をもって迎えられ、100以上の応募作品の中でトップ10に入った。
この成功を受けて、オスカー・シャープ&ロス・グッドウィン両氏は、ベンジャミンに脚本ばかりでなく、脚本・監督・編集全てを行わせ、人の手を介在させない映画を作ることを決めた。
それが、2018年の「SFL 48-Hour Film Challenge」に出品された『Zone Out』だ。ベンジャミンは、当然撮影はできないので、あらかじめ撮影した俳優の数十種類の顔を、フェイス・スワッピング技術を用いて2つのパブリックドメインの映画(『地球最後の男』と『死なない頭脳』)の中の俳優と入れ替え、シーンをつなぎ合わせた。オスカー&ロスはフェイス・スワッピングや、俳優の録音音声を使用して文をつなぎ合わせたりするのもベンジャミンに任せた。
出来上がった映画は、不条理劇と呼ぶのも憚られるような、大変奇妙な代物であった。『Sunspring』の成功と対照的に、コンテストでは落選した。