iPhoneカメラ、映画撮影における可能性は? ドキュメンタリーからホラーまで、活用術を考察

 現在公開中の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』でメガホンをとった俊英ショーン・ベイカー監督といえば、前作『タンジェリン』を全編iPhoneで撮影したことで大きな話題を集めた人物だ。映画のデジタル撮影が主流となった現在、誰もが持っている身近なガジェットで商業映画が作られるというのは何とも夢のある話ではないだろうか。

 iPhoneのカメラ機能は、新しい機種が登場するたびに進化を遂げている。iPhone6s以降のモデルでは大画面での投影にも充分に対応できる4K撮影が可能になり、またiPhone8以降では映画と同じ24フレーム/秒での撮影もできるようになっているのだ。それでいて最大の魅力は小回りがきくという柔軟性。撮影した素材を加工したり、モンタージュを重ねていくだけで映画ないしは映像作品の形がしっかりと出来上がるとなれば、表現の可能性は無限に広がり続ける。

 前述のショーン・ベイカーは、その最新作の撮影フォーマットとして35mmフィルムを選択している。彼自身がイメージした世界観の彩色を忠実に再現するための最良の選択といえよう。しかし彼は、ラストシーンだけ再びiPhoneを活用した撮影に臨んでいる。作品の要となる部分なので詳しくは書けないが、ゲリラ撮影を行うためにその選択をしたようだ。

 ベイカーが使用したのは、ごく普通のiPhone6s。それにアナモフィックレンズ(シネマスコープ画面の撮影をするための特殊レンズだ)を装着し、FiLMic Proというアプリケーションの合わせ技で、『タンジェリン』とまったく同じ装備だ。大きな違いは前作が1080pのHD画質で撮影したのに対し、今作は4Kで撮影したということにある。

 さらに子供が走る姿を映し出すそのシーンは、被写体の動きが激しいことや周囲の明るさの都合もあり、ローリングシャッター現象と呼ばれる画面の揺らぎが生じてしまったそうだ。それでもベイカーは、それも映画の“マジック”だと判断して活かす。また、撮影当時雨が降りそうだった曇り空をCGで処理するなど、わずか十数秒のシーンに作り手のアイデアと最新技術のノウハウから問題点まで、あらゆるものが集約されているのだ。もっとも、たとえ撮影ツールの性能が上がったとしても、映画制作に必要なものは決して変わることがないのだと改めて理解させられる話だ。

 本作のようにiPhoneを撮影の一部に取り入れるという手法は、画面のルックが変わっても大きな問題がないドキュメンタリー映画では比較的増えはじめている。それゆえ劇映画では、全編iPhoneで撮影するというやり方が主流といえよう。世界で初めて全編iPhoneで映画を作り出したのは『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』で知られる韓国のパク・チャヌク監督で、そのとき彼が制作した短編『ナイトフィッシング』は、ベルリン国際映画祭で短編金熊賞を獲得しているのだ。

 技術的にまだまだ制限された部分が多い分だけ、そのアイデアの存在感を発揮できることとなれば、近年数多く制作されているPOV作品で真価を発揮する可能性も充分だ。デジタル撮影が主流になったからこそ生まれたPOVでは、デジタルカメラ以上に身近で小回りの利くiPhoneでの撮影はまさに持ってこいといえよう。しかも、暗闇の中でiPhoneの動画撮影をしたときに生まれる独特の質感、明るさやフォーカスのバランスの悪さは、とくにホラー向きとも思える。

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