『いぬやしき』VRはメディアミックスの新たな手法にーーフジテレビPが明かす、映画×VRの可能性

映画ファンが予想もしなかったコンテンツを

ーー2017年は映画『帝一の國』でも、VRコンテンツを発表していました。今回、再び映画制作部とVR事業部が共同でプロジェクトを行ったということは、やはり大きな成果があったということでしょうか。

北野:そうですね。『帝一の國』では、若手イケメン俳優の集団がふんどし一丁で和太鼓を叩く「ふんどし太皷」という見せ場を360度で撮影したVR映像を制作しました。複数台のカメラで現場の熱気を閉じ込めたような映像になったんですが、股間を見上げるような迫力のあるアングルが話題となり、映画公開前に再生回数が30万回を超えてプロモーションに貢献できました。その実績があったからこそ、今回はさらに一歩踏み込んだゲームコンテンツに挑戦することができました。個人的な話になりますが、僕の祖父はVHSビデオの開発者で、梶本の祖父も映画プロデューサーでした。孫の世代の自分たちが今こうして力を合わせて、VRやCGという新しい技術で、映画にとって新しい価値を作ろうとしているのを、僕の祖父には天国から見守っていてほしいと思います(笑)。

梶本:僕は祖父が引退するその日に、ちょうど映画制作部への異動が決まったんです。そういうこともあって、上の世代からバトンを受け取っているという意識は強くありますね。同じ世代に北野のような、技術も好きで映画も好きという存在がいることも大きく、パートナーとして頼り甲斐があります。

北野:映画は昔から好きでしたね。今回のプロジェクトをやっていて思い出したのは、中学1年生のときに観た『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)という作品で、それは一人の少年が「魔法のチケット」を手に入れて、映画の中の世界に飛び込むというお話なんです。あれから25年が経って、テクノロジーの進化でそれに近いことができるようになったというのは、映画ファンとしても胸が熱くなります。

梶本:次の段階としては、VRによる映画作りですよね。ただ、VRはまだ発展途上の技術ですし、監督が演出をするにしてもVRの特性を熟知しなければいけないので、作品として洗練されたものが生まれるのはまだ先になるのかなと。

北野:映画の歴史でも、リュミエール兄弟が映写機を開発した当時は、今のVRと同じように定点で撮りっぱなした映像がほとんどで、その後にセルゲイ・エイゼンシュテインがカット割りで意味を生成していくモンタージュ理論を確立するなどして、劇映画は次第に洗練されていった歴史があります。360度カメラに広角レンズの縛りがある以上、できることは限られるかもしれませんが、発明となるセオリーを新しい機材と一緒に考えられたら最高ですね。

 ただ、バーチャルな体験という意味では、映像だけにこだわる必要もないと思っていて、限定したシチュエーションでの「特定の体験」に人間を没入させる技術はどんどん進んでいます。たとえばある大学の研究会では、少しマニアックですが、テクノロジーの力で「失禁」の体験を再現することを真面目にやっていたりします。いくつかの技術要素を組み合わせて、内股に取り付けたホースの中にお湯を通したり、直後のぶるぶるっとする感覚を振動デバイスで与えたりするんですが、実際に体験してみたところ、再現度が高くて驚きました。

 なので、今回の『いぬやしき』のように、その映画でもっともスクリーンに飛び込みたい瞬間であり、再現したい体験を特定した上で、新しい技術と向き合うことを続けていきたいと思います。その先に、映画ファンが予想もしなかったコンテンツが生まれることを自分自身楽しみにしています。

梶本:たしかに、今回のプロジェクトを通して、映画の可能性が広がったという実感はありますね。新しい技術にもすごく興味が湧いたので、今後手がける作品でもそうした技術にアンテナを張りつつ、さらに人々を驚かせることができるような仕掛けを生み出していきたいです。

(取材・文=松田広宣)

■映画『いぬやしき』公開情報
『いぬやしき』
4月20日(金)全国東宝系にてロードショー
出演:木梨憲武、佐藤健、本郷奏多、二階堂ふみ、三吉彩花、福崎那由他、濱田マリ、斉藤由貴、伊勢谷友介
監督:佐藤信介
原作:奥浩哉
製作:フジテレビジョン
配給:東宝
(c)2018映画「いぬやしき」製作委員会 (c)奥浩哉/講談社
公式サイト:http://inuyashiki-movie.com/

■映画『いぬやしき』VR概要
『いぬやしき』VR
制作
supported by Windows 10:https://www.microsoft.com/ja-jp/windows/windows-mixed-reality
produced by Fuji VR:http://vr.fujitv.co.jp/
協力
シーエスレポーターズ:https://www.cs-reporters.com/
店舗キャンペーン紹介ページ:https://www.microsoft.com/ja-jp/atlife/campaign/windows-pc-48/device.aspx#windows48-campaign

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