『いぬやしき』VRはメディアミックスの新たな手法にーーフジテレビPが明かす、映画×VRの可能性
4月20日に公開される映画『いぬやしき』の世界が体験できるインタラクティブなVRコンテンツが、全国販売店「Windows Mixed Reality 体験コーナー」で展開されている。
映画『いぬやしき』は、奥浩哉原作の同名コミックを実写化したSFアクション。謎の事故に巻き込まれ機械の体に生まれ変わり、人間を遥かに超越する力を手に入れた、冴えないサラリーマン・犬屋敷壱郎と、同じ事故に遭遇し、手に入れた力を己の思うがままに行使する高校生・獅子神皓が、それぞれの想いで動き出す模様を描く。映画主演は16年ぶりとなる、とんねるずの木梨憲武が主人公・犬屋敷壱郎を演じ、自身初の悪役に挑む佐藤健が大量殺人鬼・獅子神皓役を務める。同じく奥原作の『GANTZ』実写版の監督を務めた佐藤信介がメガホンを取った。
『いぬやしき』のVRコンテンツは、映画の目玉である「新宿上空での空中戦」を体験できるもので、株式会社フジテレビジョンと株式会社シーエスレポーターズとの協業で制作された。リアルサウンドテック編集部では、本作のプロデューサーを務めたフジテレビ映画制作部の梶本圭氏と、Fuji VRプロデューサーの北野雄一氏にインタビュー。『いぬやしき』VRのプロジェクトが立ち上がった経緯から、映画とVRのメディアミックスの可能性についてまで、幅広く話を聞いた。
『いぬやしき』VRについて
ーー今回、映画『いぬやしき』の世界をVRで制作しようと考えた経緯を教えてください。
梶本:映画制作部で『いぬやしき』を映画化することを発表した際に、VR事業部の北野から連絡があって、「『いぬやしき』の世界観はVRと親和性が高いはずだから、一緒に何かをやろう」と声をかけてもらったのがきっかけですね。
北野:僕らは2005年の入社同期で、フジテレビに内定が決まったときから、「いつか一緒に面白いことをしよう」と語り合っていた仲なんです。だから、梶本が『いぬやしき』のプロデュースをすると聞いた瞬間、お互いがこれまでにやってきたことが、いよいよ交わるのがこれかなという直感がありました。もともと原作も大好きでしたし、映画は新宿が舞台になっていて、CG合成にその3Dモデルを使っているとのことだったので、これはVRコンテンツを作るしかないと。
ーーVRで使用している3Dモデルは、映画と共通のものを使用しているのですか?
北野:同じものを使用しました。そのままだとデータが重くてゲームの開発には適していなかったのですが、今回同じものを使用することに意味を感じていたので、工夫をしながらデータを加工しました。地図会社が提供しているゲーム開発用の3Dモデルも参考にしたのですが、街路樹の1本1本までちゃんと作ってある一方で、テクスチャがきれい過ぎるということがありました。映画のデータは3Dモデルの表面に航空写真を貼り付けているのですが、「新宿の上空を飛び回る」というコンセプトを重んじた時に、ちゃんと既視感があって猥雑な雰囲気まで感じられたのが、圧倒的に映画のデータだったということもあります。
ーー映画『いぬやしき』の予告編を見ましたが、あのスピード感あふれる新宿での空中戦を体験できるというのは、心踊るものがありますね。
梶本:今回の予告編はおかげさまで非常に好評で、反響は大きいですね。『いぬやしき』を実写映画化すると発表した当初は、これまでの日本のCG映画には残念な仕上がりの作品も少なくなかったためか、ネガティブな反応もありました。しかし、佐藤信介監督はこれまで『いぬやしき』と同じく原作者の奥浩哉先生とのタッグで『GANTZ』を制作して、実写CGの新たな可能性を見出し、その後も『アイアムアヒーロー』(2016年)や『デスノート Light up the NEW world』(2016年)など、漫画の実写化映画で実績を残しています。原作を読んだ当時は正直なところ、「これを実写化するのは予算的に難しい」と思いましたが、最近は技術的な進歩もあって日本のCGのレベルは急速に上がっています。そこで、せっかく佐藤監督と仕事ができるのだから、かつてはハリウッドでしかできなかったレベルのCG作品を作って、日本映画を次のステージまで持ち上げていこうという志で、『いぬやしき』に挑戦することになりました。
新宿の街でバトルをするのは、洋画との差別化ができるところではありますが、仕上がりはCG次第なのでどうなるのかは未知数でした。人物まですべてCGで、いっさい撮影を行っていない箇所もあったので、もうCG部と監督を信じるしかありませんでしたね。でも、いざ出来上がってみたら予想を超えるクオリティで、まさに「空飛ぶ映像トリップ」というキャッチフレーズがぴったりの体感的な作品になりました。
このCGのクオリティだけでも新しいのに、今回、北野が声をかけてくれたことで、VRという新しい領域にもチャレンジできたのは嬉しかったですね。監督にもプレイしてもらったのですが、かなり満足いただけたようで、体を大きく動かしながら楽しんでいました(笑)。
北野:プレイする際の飛行スピードは、映画の「超高速のバトル」の臨場感になるべく近付けたいという一方で、VRには「酔い」の問題もあるので、操作性を含めた細かい調整が必要でした。結果、監督を含めた関係者が、大きなリアクションでプレイしてくれるのを見て、コンテンツへの手応えを感じました。
ーーVRのスピード感は、大きなスクリーンでもまた体験したくなるものでした。メディアミックスの手法としても、VRコンテンツを活用するのは新しいですね。北野:漫画、アニメ、実写映画化、そしてVRコンテンツと展開していくのは、今後のメディアミックスの手法の中で定着していくと思います。映画で使用している3DモデルをそのままVRに活用しているという意味では、まさに「映画の中に飛び込む」体験ができるわけで、そこが面白いポイントだと思いますし、ノウハウの蓄積にもつながりました。
ーー今回のVRコンテンツは、Microsoftの「Windows Mixed Reality(以下、Windows MR)」用に作られています。そこにはどんな狙いがありましたか?
北野:「Windows MR」は、ノートPCを含む比較的一般的なスペックのPCでも動かせるのが大きな特徴です。動かすのにハイスペックなPCが必要だったこれまでのVRデバイスと比べて、「Windows MR」であればもっと気軽にVRコンテンツを楽しんでもらうことができ、ライトなユーザーも取り込めると思っています。
今回、日本マイクロソフトとのタイアップなのですが、スマホでは実現できない、リッチなVR体験をユーザーに届けるにはデバイスの普及が非常に重要です。コンテンツとデバイスが一体となって業界全体でVRを盛り上げようという機運が高まる中、コンテンツの力で貢献ができたのはうれしかったですし、一緒に仕掛けることができて感謝しています。
多くの方々にコンテンツを体験してもらう場所として、家電量販店の店頭という新しいチャンネルを開拓できたのも大きな成果だったと思います。
梶本:タイアップでなければ、今回のVR企画は成り立ちませんでした。これが成立したのは、VR事業部がこれまで様々な実績を積み上げる中で、的確に波を捉えてくれたおかげだと思います。
北野:VR事業部が立ち上がってから、本当にいろんな方面の方々とのつながりができました。その積み重ねの上で、映画業界とVR業界をつなぐことができたのはVR事業部にとってのひとつの成果で、両方の業界を盛り上げていくきっかけになればと考えています。