『さよならの朝に約束の花をかざろう』息をのむ背景の美しさーー美術監督・東地和生の手腕

 ほかにも、“雲”の描写にもぜひ注目してほしい。わかりやすい例で言えば、先ほどの雨のシーンと同じように、不穏な場面では背景も曇り空になるなど、ストーリー進行やキャラの心情と空模様はリンクしている。晴天のシーンで流れる雲であっても、一つひとつ形が異なり、それぞれに記号的意味合いが込めれているのだ(これについては、アニメーション制作現場を描いたP.A.WORKS作品『SHIROBAKO』13話「好きな雲ってなんですか?」をぜひ参照してほしい)。本作でも、ラストの田園風景を歩くマキナのバックには空を断ち切るかのようにまっすぐな雲が描かれており、別れを受け止めて歩んでいこうとする彼女の強い意志が感じられた。

 物語を追う以外にも、こうした背景美術にどのような効果や意味が込められているのか、読み解く楽しさも兼ね揃えた『さよ朝』。テレビアニメ作品の背景も非常に評判の高いP.A.WORKSだが、本作はせっかくの劇場版ということで、ぜひとも大画面で見事な背景を細部まで堪能してほしい。

■まにょ
ライター(元ミュージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。Twitter

■公開情報
『さよならの朝に約束の花をかざろう』
2月24日(土)ロードショー
監督・脚本:岡田麿里
キャスト:石見舞菜香、入野自由、茅野愛衣、梶裕貴、沢城みゆき、細谷佳正、佐藤利奈、日笠陽子、久野美咲、杉田智和、平田広明
チーフディレクター:篠原俊哉
キャラクター原案:吉田明彦
キャラクターデザイン・総作画監督:石井百合子
美術監督:東地和生
美術設定・コンセプトデザイン:岡田有章
音楽:川井憲次
音響監督:若林和弘
アニメーション制作:P.A.WORKS
配給:ショウゲート
(c)PROJECT MAQUIA
公式サイト:http://sayoasa.jp/

関連記事