『踊る大捜査線 N.E.W.』は“主人公のスピンオフ”だ 駆け抜ける土地の意味を読み解く

『踊る大捜査線 N.E.W.』は“スピンオフ”だ

 こうしたハッタリを利かせたオープニングは『踊る』の劇場版の定番中の定番。少々それに費やす尺が長いのは、和久伸次郎(伊藤淳史)をはじめとした、メインストーリーに関わってこないキャラクターを登場させるご愛嬌のような意味合いも強くあるだろうが、同時に、これまでのお台場よりも広い範囲――つまり東京の、今回の副題(=メトロポリスを駆け抜けろ!)そのものを見せるという意味があるのだろう。

 考えてみれば、青島が走りはじめる新宿アイランドタワーはお台場よりもやや早い1995年に完成した建物。そこから現在進行形で再開発の進む新宿駅西口、ここ数年で劇的に変化した歌舞伎町。再開発計画が進むKK線に、再開発が完了して街開きを迎えたばかりの高輪ゲートウェイ。かつて“空き地”だったお台場の街の変化を捉えてきた『踊る』が、お台場から抜け出した今回の映画で、まず東京の30年間の変化を一気に捉える。その一点だけで、新たな『踊る』の始まりかたとしてこれ以上ない正解であることは断言できる。

 とはいえ、これまでの劇場版シリーズでもっとも高揚感に包まれる瞬間であったはずのオープニングのタイトルインが、どうにもこざっぱりした作りをしていたのは少々気になった部分だ。しかし、映画が終盤に差し掛かり青島たちが事件の犯人を追ってお台場へ向かう時、ようやく待ちに待ったテーマ曲「Rhythm And Police」が鳴ることで、その理由がはっきりとわかる。クライマックスの盛り上がりのタイミングでこの楽曲が使用されるのはいつものこと。だが今回の場合は、ようやくいまから『踊る』が始まる――いわば、ここまでは長い長い前振りであったと開き直ったかのような使われかたをするのだ。

 だからこそ、冒頭の誘拐騒動もさることながら、予告編で大々的に描かれていた「ウイルスがばら撒かれる」云々の話もハッタリで終わっていたことに納得がいく。これまでの劇場版シリーズにおいて、ハッタリで終わったオープニングに終盤へとつながる小ネタが軽く仕込まれていたのと同じように、今作における“第2の矢”はあくまで麻布中央署の美浦(白洲迅)や台東署の芝田(趣里)を青島と引き合わせるためのものであり、沖田(真矢ミキ)や桜(松下洸平)と共に室井の死を悼むためのものであったのだ。そして、結局はメインで描かれる殺人事件ですら陳腐なものに終わり(事件に大きいも小さいもないし、『踊る』の本質はそこではないのだが)、それもまた青島をお台場という場所に引き戻すためのものとしてだけ機能する。

 おおよそ“時代の流れ”として変化を感じる部分は、警察組織のあり方かもしれない。これまでシリーズを通して、警察組織を「会社」として描写してきた『踊る』。1990年代後半の不景気な時代や会社というもののあり方が大きく変わろうとしていた時期を象徴する作品として、昔ながらのやり方が崩壊しつつある悲哀を若さという勢いでもって斬新なものに置き換え、人手不足にてんやわんやしている様に喜劇を見出し、巨大組織のなかに生じる軋轢をスリリングなドラマへと変化させてきた。しかし『室井慎次』2部作と今回の『N.E.W.』では、警察組織を会社ではなく、「家族」のように描こうとしているように見える。

 より小さく、社会を構成する人々の属する最小の組織に警察を重ね合わせ、上の世代から受け継いだ遺産を下の世代へと受け渡していく。もしかすると、30年前ならばそういった継承は会社のシステムの枠組みでもギリギリできたかもしれないが、少なくとも現代では難しいだろう。さらに言えば家族というシステム自体もいま現在においては著しく様変わりしようとしているが、いずれにせよ『N.E.W.』は登場人物たちの居場所を後者に移し替えようとしているのだ。だからこそ、真下(ユースケ・サンタマリア)と雪乃(水野美紀)の息子である勇気(増田貴久)を登場させたり、『室井慎次』2部作からタカ(齋藤潤)とリク(前山こうが)を登場させたり、“幸福支援部隊”が青島に結婚を勧めたりするのであろう。

 そして最後に、やっぱり『踊る大捜査線』の舞台はお台場でなくてはならない。青島がお台場の、かつて湾岸署があった場所(劇場版第3作『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』(2010年)で爆破されたはずだが、まあそれはさておき)を訪れるラスト。同じ場所に第二湾岸署ができるとなれば、“次”の舞台は確約されたようなものだ。“空き地”から東京を代表する観光地に進化を遂げたものの、いつのまにか華々しさがなくなってしまったお台場を、青島が再び駆け抜ける。そこには新たな世代のメンバーがいて、かつての仲間たちがいて、願わくば今作では登場しなかったすみれ(深津絵里)もいてほしい。次なる一手から、本当の意味での新しい『踊る』が始まると信じておこう。

■公開情報
『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』
全国公開中
出演:織田裕二、趣里、白洲迅、佐々木蔵之介、増田貴久、野呂佳代、玉井詩織(ももいろクローバーZ)、藤吉夏鈴(櫻坂46)、齊藤なぎさ、佐藤二朗、ユースケ・サンタマリア、真矢ミキ、水野美紀、甲本雅裕、寺島進、伊藤淳史、滝藤賢一、松重豊、松下洸平、斉藤暁、小野武彦、北村総一朗
監督:本広克行
脚本:君塚良一
プロデュース:亀山千広
音楽:松本晃彦
主題歌:織田裕二「Love Somebody(CINEMA Version)」(ユニバーサル ミュージック)
配給:東宝
©2026フジテレビジョン BSフジ ビー・エー・シー
公式サイト:https://odoru.com/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/odoru_movief
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