見上愛、『風、薫る』で示した“国民的俳優”の輝き 一ノ瀬りんを生き抜いた半年間の集大成

そう、名実ともに彼女がメジャー・シーンで広く認知されるいっぽうで、インディペンデント・シーンにおいてもなくてはならない存在なのだ。見上のことを“映画俳優”として認識していた人々にとっては、やはり「朝ドラ」の主演はかなり驚きだったのではないか。繰り返すが、間違いなくその器を持っている人だと分かっていても、である。これはいま思えば、ミニシアター作品から見上がいなくなっては困るという、身勝手ないち観客の心理的なリアクションだったともいえるのかもしれない。同意してくださる方は少なくないだろう。“国民的俳優”になることがその後のキャリアに与える影響は、計り知れないものがあるのだから。

もう最終回も目前だというのに、いまさら見上が「朝ドラ」で主演を務めることの正当性と意外性に、かなりの文字数を費やしてしまった。ここから一気に、『風、薫る』での彼女の姿に話を戻そう。
見上が演じるりんはおっとりした穏やかな性格で、どんな困難を前にしても、そこは変わることがなかった。対する直美は、時の流れの中で大きく変わった人物だ。物語がはじまったばかりの頃はいつもトゲトゲしていたが、いまでは見違えるほどに丸くなった。その雰囲気も朗らかだ。これは脚本にそう記されているのだろうが、見上が体現するどっしりとしたブレない穏やかさが、自然とあのように“直美=上坂樹里”という他者を変化させることになったのではないかと想像する。
りんは直美から強さを受け取り、愛を与えた。りんとともに過ごしていれば、この令和の時代に翻弄される私のような人間でさえ、穏やかになれるのではないか。そんなことさえ思ってしまうほど、すべてを包み込むような優しさを見上は体現し続けてきた。上坂の演技のタイプが“動”だとしたら、見上は“静”だろうか。いや、上坂は“静的な動”で、見上は“動的な静”か。

とはいえ、りんはどんなときでも穏やかだったわけではない。人の死に立ち会うときの彼女は、激しく揺さぶられていた。その声と表情から溢れ出す焦り、苦しみ、悲しみ、なにもできなかった自分に対する底知れぬ無力感。見上の表現する瞬間的な変化をとおして、私たちはりんという人間の内面に触れてきただろう。変わらず穏やかでいることで世界を救い、瞬間的な変化で私たちをも揺さぶる。「最近よく見かける」のは気のせいではなく、「この人しかいない」と確信した。文字通りの、“国民的俳優”の誕生である。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















