『八つ墓村』はミステリーもホラーもそっちのけの怪作? 映画『ちいかわ』と2つの共通点も

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、どちらかと言うとホラーが苦手な住本が『八つ墓村』をプッシュします。

『八つ墓村』

 原作は横溝正史による1951年刊行の長編推理小説で、近年何度目かのブームを迎えているように思える「因習村もの」の原点とも言える作品。テレビドラマまで含めると映像化の回数は2桁にのぼり、映画化だけでも今回で4度目となる。

 今回の監督は『呪怨』(2003年)などで知られる清水崇だが、彼はこの定番人気作をどのように料理したのか。早くも結論から言ってしまえば、ミステリー要素そっちのけのホラー全振り、さらに言えば途中からその針も振り切れてもはや笑えてくるという怪作に仕上がっている。

 「もはや笑えてくる」のは、監督がホラー的に面白い映像を作ることを全力で楽しんでいるように見えるから。たとえば、尾上松也演じる主人公の金田一耕助と奥智哉演じる大学生・井川辰弥が、八つ墓村で次々と起こる不気味な事件に対し、「実はあいつが怪しいんじゃないか」とある人物を名指しして会話するシーン。

 この会話は当の人物に盗み聞きされていますよ、ということが明らかに示されるので、観客の関心は「尾上&奥が盗み聞きされていることに気づくのか、気づいたとしてその状況がどのように展開するのか」に集中する。すると、案の定2人は盗み聞きに気づき、当の人物と対面という気まずいシチュエーションに。ではそこで何が起こるのかというと、あっと驚くような超現実的な映像が展開して観客の度肝を抜く。対面の直前にはドローン撮影と思われる謎のPOVショットが上空からその人物に向かって降りていき、“何か”が憑依しているのだが、対面直後にバタリと倒れ込んだかと思うとグニャグニャと変形して恐ろしい姿を現すのである(これ以上は実際に観てみてほしいとしか言えない)。

 この超現実的な映像の展開という点は、それまでに起こる殺人事件にも、クライマックスの大立ち回りにも当てはまる。「映画館で映画を観ることの楽しみの一つは、こういう突拍子もないものを観ることにあるよなぁ」と思わせられるので、現実世界の馬鹿馬鹿しさ(たとえば大国のトップが「選挙に勝ったら皆に大金を配りますよ」と宣言したりするような馬鹿馬鹿しさ)にうんざりな人にはぜひ楽しんでほしいし、逆にそんな世界で楽しく生きている人には嫌がらせで観せてみたい。

 では、この映画はただのネジの飛んだ映画なのか、と言われるとそうでもないところも面白い。公式に出ている推薦コメントのなかで、講談師の神田伯山が「完全に映画『ちいかわ』でした! もはや実写版映画『ちいかわ』すぎるその展開に、劇場もザワつくことでしょう」と評しているのに注目だ。

 そもそも、映画『ちいかわ』はその展開が「因習村もの」っぽいということは散々言われているので、影響関係がぐるっと回って『八つ墓村』が映画『ちいかわ』なのは当然のこととも言える。人は自分が生き延びていくために、ときには弱者を装って他の誰か(あるいは“他所者”)をさりげなく犠牲にすることで生きている。いずれの作品でも、その罪と罰が描かれるのである。

 しかし、『八つ墓村』と映画『ちいかわ』がシンクロしているのはそれだけではない。映画のエンドロールが終わったあとにもう一展開があり、それが何かしらの余韻を残すという点でも一致しているのだ。

 突拍子もない映像とミステリーそっちのけの超常現象展開でめくるめく罪と罰の世界をくぐり抜けた先で、静かな場所に着地する。そして映画館を出てみると、この普通に思える世界のあそこにもここにも、実はさりげない狂気が潜んでいるのかもしれないと感じるセンサーが働き出す。映画館に入る前と出た後で世界の見え方がすこし変わるということも映画を観ることの楽しみの一つだなぁ、と『八つ墓村』は感じさせてくれるのである。

■公開情報
『八つ墓村』
全国公開
出演:尾上松也、奥智哉、堀田真由、高島礼子、滝藤賢一、小籔千豊、渋川清彦、髙嶋政伸
原作:横溝正史『八つ墓村 金田一耕助ファイル1』(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:清水崇
脚本:尾ヶ井慎太郎、清水崇
音楽:アントンジュリオ・フルリオ
主題歌:「DOOM」TMG(Tak Matsumoto Group)
原作:『八つ墓村 金田一耕助ファイル1』(横溝正史/角川文庫)
制作プロダクション:ダーウィン
制作協力:松竹撮影所
製作幹事・配給:松竹、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
製作:「八つ墓村」製作委員会
©2026「八つ墓村」製作委員会 ©Yokomizo Seishi/KADOKAWA
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/yatsuhakamura-movie
公式X(旧Twitter):https://x.com/yatsuhaka_movie/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@yatsuhaka_movie/

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