“奇跡”から始まる不穏で痛切なドキュメンタリー 『グルスポングの奇跡』監督インタビュー
フレデリクソン監督にとってドキュメンタリーとは?
ーー手法の話が出たところで、映画の具体的なディテールについても伺っていければと思います。中盤のオーウラグとマイたちのあいだの亀裂が決定的になる緊張感のあるシーンがとくに印象的だったのですが、監督はドキュメンタリーにしてはカットをたくさん割りますよね。つまり、誰かがなにかを言ったあと、他の誰かが反応する表情を別のショットで見せるという演出を多く使っている。現場では複数台のカメラを使って撮っていたのですか?
フレデリクソン:いいえ、現場にいたスタッフは私と撮影監督のピア・レートだけで、カメラは彼女が持っていた1台だけです。彼女は物事が起きるまえに状況を察知する能力に長けていて、いまどこを撮るべきかという判断ができるんです。しかも、私はこれまでの作品でも彼女と一緒に仕事をしていて、撮影時以外も一緒にコーヒーを飲んで話し合ったりしながらたくさんの時間を過ごしています。私のやりたいことをよく分かってくれている、信頼する撮影監督です。
ーーなぜリアクションのカットをたくさん入れるのでしょうか?
フレデリクソン:この映画のとくに後半では、それぞれの登場人物が様々な視点や言い分を持っていることがどんどん明らかになっていきます。私はそれぞれの言い分をわけて聞く立場にいなければならなかったので、観客の皆さんにも私と同じ視点に立っていただきたいと思ってカットを多く入れました。いま起こっている物語をうまく伝えるためには、それぞれの登場人物の立場をしっかり対比させるほうがいいと思った、と言い換えることもできます。
ーーカットで割られたリアクションがあまりにスムーズにつながっていたので、演じられたフィクションのように見える瞬間もあるくらいでした。
フレデリクソン:もちろんこの作品はドキュメンタリーです。さきほども言ったとおり、私と撮影監督は本当に多くの時間をともにしています。撮影に入るまえには「今日はもしかしたらこういうことが起きるかもしれない」という話もしていて、それがそのとおりに起きてうまく撮ることができたという場合もありました。もちろん思いもよらないこともたくさん起きましたが、そういうときは現場でのアイコンタクトで即座に動いて撮ってくれます。さらにもうひとつ付け加えると、私たちは出演者と「カメラはずっと回し続けていてよく、どの素材を使っていいかはあとで決める」という約束をあらかじめ結んでいました。なので、たとえ居心地の悪いシチュエーションでも「いま撮っていい?」と尋ねるようなことなく、すべてを撮ることができました。
ーー海外のメディアでは、「『ツイン・ピークス』を想起させるデヴィット・リンチ的な余韻も漂う」とするレビューも掲載されていました。亡くなったリータの顔写真のショットを繰り返しインサートしたりするところは実際に『ツイン・ピークス』を意識されたのではないかと思ったのですが、いかがですか?
フレデリクソン:撮影の段階から『ツイン・ピークス』の話はしていました。ただ、「『ツイン・ピークス』みたいな作品を作ろう」と言って撮っていたわけではありません。むしろ、撮影現場の自然の風景を見ながら「なんだか『ツイン・ピークス』の世界に紛れ込んだみたいな気分だね」という話をしていた感じですね。インサートで入れた写真のショットも、もともと意図して撮っていた素材ではなく、編集段階で「ちょっと『ツイン・ピークス』っぽいかも」と気づいたものです。
ーーほぼラストのショットで、カーリとマイが画面内に映った窓枠のなかに消えていくところも印象的でした。あれはどのように撮ったのでしょうか?
フレデリクソン:あれは編集の段階で出たエディターのアイデアを「面白いな」と思って取り入れたものです。二人が映っているショットとなにも映ってないショットをかなりシンプルにつないで作りました。特別なエフェクトを使ったというわけではないですが、ちょっとした遊び心ですね。
ーーお話を伺っていて、ドキュメンタリーといえど作り込んだ要素がまったくないわけでもないのかなと思いました。監督にとってドキュメンタリーとそうでないものを分けるものはなんですか?
フレデリクソン:いい質問ですね。ドキュメンタリーで大事なのは、出演者の皆さんと監督である私にとって、完成した映画が「これは実際に起きたことだ」「自分たちの真実の物語だ」と信じられるものになっているかどうかだと思います。まあ、先ほどの窓枠のショットで言うと、本当にカーリとマイが消えたわけではないので実際に起きたことではないですが、それは観客の皆さんも見てすぐにわかることなのでよいかなと。
ーーたしかにあのショットを見て「嘘をついてるじゃないか」と言う人はいないですよね。
フレデリクソン:『グルスポングの奇跡』の撮影では、奇妙なことがたくさん起きました。なので、観客の皆さんに「これは作り話なのではないか」と思われないように透明性を大事にしていて、そのために監督としての私の存在を出すシーンもいくつか入れています。もうひとつ大事にしたのは、出演者の皆さんに演技をせずにありのままの姿で出ていただくこと。映画の冒頭では、カーリとマイがオーウラグと出会うまえの、あるキッチンで絵を見つけたときの様子を何度も再現してもらうよう私が指示を出すシーンを入れていますが、あれも演技をしてほしかったわけではありません。撮影を始めるまえにすでに起こっていた出来事について、私が理解する必要があったんです。
ーー監督のドキュメンタリーに対する姿勢がよくわかりました。最後に監督の今後についても伺いたいです。現在は複数のプロジェクトが進行中で、そのうちのひとつがスウェーデンのオロフ・パルメ首相暗殺事件と長年にわたって犯行を自白してきた人物たちを追うものだということです。なぜその題材を選ばれたのでしょうか?
フレデリクソン:今回の『グルスポングの奇跡』は、複数の登場人物がそれぞれ自分の信じたい真実を選び取っている話だと考えています。いま作っている『We Killed Palme(仮題)』も、「首相暗殺の犯人は誰か」について複数の人たちがそれぞれ別の確信を持っている。みなさんの言っていることがかなり食い違っているので、もしそれぞれの言い分をすべて信じるとしたら、首相は何回も殺されていたことになってしまうほどです。つまり、「それぞれに信じたい真実がある」ということが、『グルスポングの奇跡』と共通したテーマになってくると思います。
■公開情報
『グルスポングの奇跡』
池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか全国公開中
出演:カーリ・クロー、マイ=エーリン・ストーシュレットゥン、オーウラグ・バッケヴォル・オストビーほか
監督:マリア・フレデリクソン
配給:カルチュアルライフ
後援:スウェーデン大使館、ノルウェー大使館、デンマーク王国大使館
原題:Miraklet i Gullspång/スウェーデン・ノルウェー・デンマーク/2023年/114分/カラー/ノルウェー語・スウェーデン語/フラット/5.1ch/G/日本語字幕:常磐彩/字幕監修:青木順子
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