『Tシャツが乾くまで』の正体を揺さぶる2人の存在 “分かったつもり”を覆す新たな視点
千鶴の言葉にも、当たり前だと思っていたことを改めて考えさせる瞬間がある。 妻公認のもと、拓馬(庄司浩平)と不倫関係にあった千鶴。ところが拓馬から、妻と別れて千鶴と一緒になるつもりだと告げられると、彼女は別れを切り出す。
不倫相手である以上、妻と別れて自分を選んでもらうことを望んでいる。そんな前提を、拓馬も見ているこちらもいつの間にか千鶴に当てはめていたのだろう。「私が何を喜ぶか全然分かってない」という千鶴の言葉は、拓馬だけでなく、同じように考えていた視聴者にも向けられているように響く。
第8話の“会議”でも、千鶴は「その人がどう見えるか」と「その人がどんな人なのか」を分けて考えている。初対面の宮内に“穏やかなおじさん”という印象を抱いた千鶴に対し、樹生は「この人穏やかじゃないです。一番どぎついです」と否定する。すると千鶴は「でも、穏やかな人っていう印象は事実としてある」と返す。
人は、誰かを見たときにまず印象を持つ。そしてその印象を、いつの間にかその人自身だと思ってしまう。けれど、印象は本質ではない。一方で、印象だからといって無意味なわけでもない。千鶴はその二つを乱暴に一つにせず、「どう見えたか」と「その人がどういう人か」を分けて考える。ここでもまた、私たちが無意識に一緒くたにしていたものを立ち止まって考え直させる。
宮内と千鶴は、私たちが「そういうものだろう」と受け入れかけたところに、ほんの少し違う角度から言葉を投げ込んでくる。そのたびに、分かったつもりになっていたものに小さな違和感が生まれる。いわば、簡単に答えを出すことを許さない“ノイズ”のような存在なのかもしれない。
第8話のタイトルは「逃避と詮索」だ。咲子はその場から逃れ、残された人々は彼女を“詮索”する。どこへ行ったのか。なぜ出ていったのか。どんな人だったのか。けれど、人を詮索すればするほど、知っているつもりだった相手に、まだ知らない顔があることに気づかされていく。咲子を探すために始まったはずの会話の先にあったのは、「咲子とはこういう人だ」という答えではなく、まだ知らない咲子の存在だった。
思えば私たち視聴者も、目の前に見えている登場人物たちの一面にずいぶん振り回されてきた。そして、そんな私たちの見方に何度も小さな引っかかりを残してきたのが、宮内や千鶴の何気ない一言だった。だからこそ、「今度はどんなことを言ってくれるのだろう」と、2人の登場を楽しみにしている自分がいる。 そんな宮内と千鶴の存在もまた、『Tシャツが乾くまで』から目が離せない理由の一つなのだろう。
■放送情報
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
U-NEXTにて、各話放送直後より配信
Netflixにて配信中
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、夏帆、松山ケンイチ、リリー・フランキー、臼田あさ美、齋藤飛鳥、庄司浩平、久保田薫、飛永翼ほか
脚本:生方美久
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
音楽:haruka nakamura
主題歌:スピッツ「見知らぬ糸」(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
製作:ケイファクトリー、TBS
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tshirt_ga_kawakumade_tbs
公式X(旧Twitter):@tshirts_tbs