『Tシャツが乾くまで』の正体を揺さぶる2人の存在 “分かったつもり”を覆す新たな視点
「各々のさっちゃん像を教えてほしい」
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)の第8話では、充(松山ケンイチ)の呼びかけで、喫茶「ひこうき」に樹生(中島歩)、直人(高橋文哉)、千鶴(臼田あさ美)、宮内(リリー・フランキー)が集まった。家を飛び出した咲子(蒼井優)の行方を探るため、それぞれが知る“咲子像”を持ち寄ることになったのだ。
実はこの場面、予告で見たときからひそかに期待していた。これまで別々の場所で物語に現れてきた登場人物たちが、「ひこうき」で一堂に会する。そんな光景に、高揚感があったのだ。特に宮内と千鶴、この2人のことが以前からどうも気になっていた。ストーリーラインに直接関わる場面は多くない。それでも、現れるたびに場の空気を変え、去ったあとにも心にざらりとした感触を残していく。
それぞれが自分の知る咲子について語る中、宮内は咲子について「相手によって、場所によって、時期によって自分を変えていた上に、穏やかとか明るいという印象も与えてた。それはずいぶんと無理をされたんだと思いますよ」と話す。
この「無理をしている」という感覚は、決して視聴者にとって意外なものではない。つらい状況でも笑顔を見せ続ける咲子が、無理をしていることは明らかだ。 ただ、ここではっとさせられたのは、充がいなくなってからの咲子ではなく、相手や場所に合わせて自分を変えてきた、その生き方自体を「無理」と捉えた点だ。それぞれが知る咲子の断片を並べていた会話に、新たな角度を加える。その一言によって、これまで見てきた咲子の姿が少し違って見えてくる。
思えば、宮内はいつもそうだ。登場人物たちや視聴者がある方向へ進もうとすると、横から別の視点を投げ込んでくる。
充とあずさが長野に向かった理由を探ろうとする樹生と咲子に対して、宮内は「死んだってプライバシーは守られるべきだと思いますよ」と釘を刺す。夫婦なら、その真実を知ってもいいようにも思える。だが宮内の言葉は、その前提自体を問い直す。亡くなった人の秘密なら、明らかにしていいのか。理由探しに向かっていた物語と視聴者の足を、ふっと止めるのだ。
樹生の家を訪れた場面も印象的だ。あずさから譲り受けたハンディファンをめぐり、宮内は、その行方を樹生が知らなかったことを指摘する。すると樹生は「妻の家での口癖は『ねぇ、樹生、聞いて』です。僕が先に家に帰ってるときは、玄関についた瞬間から話し始める」と、夫婦の距離の近さを語る。だが宮内は「仕事中の奥さんの口癖は『ねぇねぇ、店長、夫に言えない話、聞いて』でした」 と、樹生の知らないあずさの一面を明かす。
樹生の知るあずさも、宮内の知るあずさも、どちらも本当なのだろう。ただ、自分が知っている相手の姿が、その人のすべてとは限らない。宮内は、親しい人に対して誰もが当然のように抱く「自分はこの人のことを分かっている」という思い込みに、静かに冷水を浴びせるのだ。