『Tシャツが乾くまで』はなぜ視聴者の心を掴むのか “家事”から浮かび上がる共感と喪失

 さらに、第1話冒頭で、洗濯物を「干すのも畳むのも嫌い」と言っていた咲子は、充がいなくなった後、洗濯物の中から、充が使っていたものを手に取る。充の乗ったバスが転落するという、咲子の人生を揺るがす大事件が起きたとしても、家に帰ったら干し終わった洗濯物を畳む日常が待ち構えている。そして、その洗濯物一つ一つから、不本意に分断され過去となってしまったそれまでの充との日常が立ち現れるために、彼女は涙せずにはいられない。

 家事の中にも日常と非日常がある。第5話の咲子が、「洗うって決めないとなかなか洗わないもの」としてクッションカバーのことを言ったように。第5話はそんな「特別な家事」を通して、充の失踪から1年経った咲子の変化を描いた回だった。咲子は、かつて偶然樹生に見られて恥ずかしそうだったスーパーの「お惣菜半額」のタイムセールで、今は樹生と翔(久保田薫)と合流し楽しそうにお惣菜を見ている。同時に樹生と「毎週土曜日にコインランドリーで会う」ことも習慣化していた。

 でも、彼女はそこで「洗うって決めないと洗わないもの」であるクッションカバーを洗い、「先週と同じ服にならないように」気を付けたりしている。つまり、樹生と翔との、会って1年経って習慣化してきた日常は、彼女にとってまだ日常の中の特別でしかない。そのため、樹生からの「一緒に住む」という唐突な提案に当惑したまま、家に帰ってソファーに寝転ぶ咲子の視線の先には、想像し得るまだ見ぬ樹生と翔との新しい「日常」と比較するかのように、ロボット掃除機という充がいた時から変わらない彼女の日常を象徴する存在が静かに作動している。

 一方で、咲子は、充と一緒にいる時は不必要だった、高いところのものを取る時に使うための脚立を買い、「気持ちの整理をするために」大きめのゴミ袋を買い、掃除を始める。これも「洗うって決めないと洗わないもの」と同じ「決意しないとできないこと」であり、充失踪後、1年経った咲子の心境の変化の表れだった。

 このように本作の妙は、家事という大多数の視聴者の日常に直結したもののその先に、「喪失から始まる愛と秘密の物語」を描いていることにあるのではないだろうか。だからこそ視聴者の誰もが我が事のように、咲子の身に起こったことを見つめ、そこから生まれる感情の一つひとつを咀嚼し、言語化せずにはいられない。

 タイトルの『Tシャツが乾くまで』は、当初充とあずさのコインランドリーでの第3金曜日の逢瀬のみを意味するもののように見えていた。しかし、第2話の「さくっと説明しますね、洗濯物乾くまでの時間で」という樹生の台詞から始まり、2人は「可哀想な人同士」ゆっくりと心の距離を縮めていった。そして第6話で提示されたのは、1年後の現在の、咲子と樹生による毎週土曜日の習慣と、かつての充とあずさの第3金曜日の習慣が、何も知らない第三者から見れば、よく似た景色に見えているのかもしれないということだ。充が帰ってきたことで破られた、静かな日常。さらに複雑に絡み合う2組の夫婦の「愛」の行く末は、果たしてどこにあるのだろうか。

■放送情報
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
U-NEXT、Netflixにて配信
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、夏帆、松山ケンイチ、リリー・フランキー、臼田あさ美、齋藤飛鳥、庄司浩平、久保田薫、飛永翼ほか
脚本:生方美久
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
音楽:haruka nakamura
主題歌:スピッツ「見知らぬ糸」(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
製作:ケイファクトリー、TBS
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tshirt_ga_kawakumade_tbs
公式X(旧Twitter):@tshirts_tbs

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