『怪速急行■■行き』は『8番出口』好きにも刺さる? 地下鉄ホラーが描く“異変”の正体

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、今でも地下鉄のトンネルが少し怖い佐藤が『怪速急行■■行き』をプッシュします。

『怪速急行■■行き』

 地下鉄ホラーというジャンルには、なぜかどうしても惹かれてしまう。 筆者自身は高校生まで市内に駅が一つもない町で育ったというのに……。

 本作の軸となるのは、動画クリエイター・ダギョンが追う“人が消える駅”の真相。しかし、その途中で駅長が語る数々の怪談は、それぞれが一本の短編ホラーとして成立するほど印象深い。ミステリーを追いながら、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)のようなオムニバスホラーを観ている感覚も味わえる構成は、本作ならではの魅力といえる。

 なかでも忘れられないのが、「駅のホームの自販機」をめぐるエピソードだ。駅で暮らすホームレスの男が、不思議なコインを拾ったことをきっかけに見慣れない自販機を見つける。缶を買って開けると中身は空。しかし、その瞬間、目の前にいた人が炭酸が抜けるようにシュワッと消え、服と持ち物だけがその場に残る。男はその力を利用して欲望を満たしていくのだが、やがて思わぬ結末を迎える。本作の中でもひときわ奇妙な味わいを放つエピソードだった。

 地下鉄ホラーと「異変」がこれほど相性がいいのは、地下鉄が最も“考え事をしている時間”だからなのかもしれない。スマートフォンを見たり、音楽を聴いたり、仕事や学校のことを考えたり。目的地へ向かうことに意識が向いているからこそ、周囲の違和感には気づきにくい。だから、いつものホームに見慣れない自販機が一台置かれているだけで、現実と非現実の境界は簡単に揺らいでしまう。

 見慣れた地下空間を恐怖へと反転させるという意味では、日本で大ヒットを記録した映画『8番出口』とも重なるものがある。地下鉄ホラーが怖いのは、暗いトンネルがあるからではない。両作の共通点は地下鉄という、人が密集しながらも互いに無関心でいられる空間そのものなのだ。

 本作を手がけたタク・セウン監督は「私たちはすべてに見慣れてしまっていて、結局何も見えていません。『怪速急行■■行き』は、慣れ親しんだものが奇妙なものになる瞬間の恐怖を見せたかったのです」と語っている(※)。 誰もがおなじみの場所だと思っている地下鉄が、ほんの少し視点を変えただけで異質な空間へと姿を変える。その境界線の曖昧さこそが、観る者の想像力をかき立ててくれる。……と、都営大江戸線の車内で、周囲を見ずにPCだけを見つめながら、この原稿を書いている筆者は思う。

参照
https://realsound.jp/movie/2026/06/post-2436926.html

■公開情報
『怪速急行■■行き』
全国公開中
出演:チュ・ヒョニョン、チョン・ベス、チェ・ボミン
監督:タク・セウン
配給 : ショウゲート
2025年/韓国/95分/スコープ(シネスコ)/5.1ch/日本語字幕:福留友子/英題:Ghost Train
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