『風、薫る』“直美”上坂樹里の髪型の変化は何を物語る? 演出に込められた意図を考察
7月28日放送のNHK連続テレビ小説『風、薫る』第87話では、直美(上坂樹里)が派出看護会設立の準備を進める。
派出看護会を設立するため、帝都医大病院を辞めることになった直美。りん(見上愛)も手紙で「心から応援しています」と励ました。直美にとっての安心材料は、養成所同期の二人が残っていること。多江(生田絵里)とトメ(原嶋凛)は、直美がやろうとすることに理解を示した。
直美が後任の看護婦取締に残した引継書はシンプルな内容だった。仕事量が偏らないように調整するほかに、「困りたる時は必ず仲間に相談し、あわよくば味方につけてしまうべし」というのもあった。人を動かすのがうまい直美らしい内容だ。ただ、これまで観てきた視聴者としては、これらはりん(見上愛)のことを言っているのではないかと感じた。
外科取締で患者に尽くそうとして仕事を抱え込んだりんを、直美はすぐそばで見てきた。仕事が偏らないようにというのは、その教訓といえる。また、直美にとって、いちばんの味方はりんだった。困ったら仲間に相談するという内容は、直美とりんの関係そのものである。
思い返すと、養成所に入った頃の直美は、怒りを抑えられず、周囲とぶつかってしまう一匹狼だった。第22話で、りんから「自分に嘘ついてるみたいで、かえって疲れそう」と言われた直美が、素直に人を頼れるようになったことは、それ自体が大きな成長といえる。派出看護婦の組織を作ろうとしたのは、文(内田慈)やトヨ(松金よね子)の看取りを通じて、看護の必要性を感じたことがきっかけで、命を見つめ、人とのつながりを感じたことが直美を成長させた。
内面の変化と軌を一にするように、髪型も変えた直美。今作では、髪型の変化が登場人物の置かれた状況を表している。直美は養成所に入る際に、過去を断ち切るために長髪を切り落とした。かつてはそれまでの生き方との決別の意味があったが、長さを変えず内側にカールさせる現在のボブスタイルは、過去と和解した直美の充実した現在を象徴するものに見える。
直美はさっそく派出看護を始めるための準備に入る。自宅の向かいの建物を美津(水野美紀)が交渉して借り受けると、使用する医療機械は卯三郎(坂東彌十郎)から購入。薬は虎太郎(小林虎之介)に注文した。虎太郎は「りんがお世話になっている方ですから」と快諾。チラシはシマケン(佐野晶哉)が新聞社で印刷してくれた。
周囲の助けを借りつつも、虎太郎やシマケンには「りんに伝えておく」と言って味方に引き入れるあたりは、人を動かすのが上手な直美らしさ全開だった。看護婦にも最強の味方が加わった。養成所の同期で看護婦にならなかったしのぶ(木越明)が、多江から話を聞いてやらせてほしいと申し出たのだ。
第19週の週タイトルは「岐路にて」。人生の転機で目にする風景には、それまでの軌跡と成長が投影される。岐路では出会いと別れがあり、しのぶとの再会だけでなく、吉江(原田泰造)との別れもあった。
派出看護会の命名を依頼する直美に、吉江は九州に行くことを伝える。初めて会ったときからずっと直美を心配していたと話す吉江は、誰よりも直美の幸福を願い見守ってきた。吉江ほど、現在の直美の姿を喜んでいる人はいない。誰かのために尽くす人の陰には、その人を支えて見守ってきた人がいることを教えてくれるエピソードだった。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK