『風、薫る』実母判明が問いかける家族の形 『虎に翼』『ブギウギ』『なつぞら』と比較
NHK連続テレビ小説『風、薫る』で、直美(上坂樹里)が長年捜し続けてきた実母が、瑞穂屋で働く文(内田慈)だったことが明らかになった。きっかけとなったのは、直美のお守りと文の髪飾りに、同じ柄の布が使われていたことだ。
本作は、日本に看護師という職業を確立させた大関和と鈴木雅をモチーフに、りん(見上愛)と直美が看護の道を歩んでいく物語だ。生まれも育ちも異なる2人の友情とともに描かれてきたのが、さまざまな家族の形である。横浜の教会に捨てられた直美にとって、母親はずっと顔の見えない存在だった。なぜ自分を手放したのか。生まれたことを喜んでくれたのか。強気に振る舞い、自分の力で道を切り開いてきた直美だが、その疑問だけは心の奥から消えなかったのだろう。
一方の文は、直美の身近にいながら、自分が母親であることを明かさずにいた。だが、親子だと分かったからといって、離れていた年月がすぐに埋まるわけではない。長年捜してきた母親が目の前にいたという事実を、直美が簡単に受け止められないのも当然だろう。2人が親子として向き合うには、まず失われた時間と、その間に抱えてきた思いを知る必要がある。
そもそも、子どもを産んだ人だけが「母」や「親」なのだろうか。直美には、血のつながりがなくても、親のように寄り添ってきた人がいる。4年前に彼女を引き取り、成長を見守ってきた牧師の吉江(原田泰造)だ。直美が実母を捜すことも否定せず、その意思を尊重しながら支えてきた。実の父親ではないものの、ともに過ごした時間と積み重ねてきた関係を考えれば、吉江もまた直美にとって大切な家族の1人だろう。
さらに直美は、りんが新潟で働くことを決めた際、環のために「2人目のお母さんになる」と宣言した。母に捨てられた経験を持つ直美が、自ら誰かの母親代わりになろうとする。母と離れて育った直美が、環にとって頼れる存在になろうとする姿も、本作が描く家族の形のひとつである。
『ブギウギ』六郎の死を通じて喪失に向き合ったスズ子と梅吉 2人の東京生活を振り返る
スズ子(趣里)は奪われ続けた。母・ツヤ(水川あさみ)の死に次いで劇団の解散。歌う場を失った彼女はそれでも前を向き、先輩でもあるり…こうした家族観は、朝ドラで繰り返し描かれてきた。近年でいうと、『ブギウギ』(2023年度後期)のスズ子(趣里)は、梅吉(柳葉敏郎)とツヤ(水川あさみ)が実の親ではなく、キヌ(中越典子)が生みの母であることを知る。しかし、真実を知ったからといって、梅吉とツヤに育てられた時間が消えるわけではなかった。スズ子にとって、産んだ母と育てた母は、どちらか一方を選ぶものではない。それぞれ違う形で、自分の人生につながる存在だった。