古川琴音が主演だからこそ成立した『ミッドナイトタクシー』 作品に宿った心地よいリズム

 主演俳優と作品の関係は、いくつもの要素が絡み合い、成立している。作品が持つテーマと俳優の関わりも、物語の世界観と演技の関係にも、無限の可能性がある。特定の組み合わせに好感を持ったとき、私たちはその作品のことを「名作」だと評し、この関係性を「必然」なものだと信じるに違いない。放送中のドラマ作品でいえば、『ミッドナイトタクシー』(NHK総合)がこれに当てはまる。主演を務めているのは古川琴音である。

 本作は、深夜勤務専門のタクシードライバーの日常を綴っていくもの。深夜タクシーの車内を物語のおもな舞台とし、古川が演じる主人公・蘭象子と個性豊かな乗客たちのユニークなエピソードが、これまでにいくつも語られてきた。決して派手な作品ではないものの、登場人物たちの軽妙な会話劇が心地よく、本作なしでは日常生活を送ることができない。そんな視聴者の方もいるのではないだろうか。物語を追っているうちに、気が付けば自分も乗客のひとりになっていることがあるのだ。

 この居心地のよさは、『時すでにおスシ!?』(TBSテレビ系)も好評だった兵藤るりの脚本によるところが大きいのは言うまでもない。何かしらの物語を扱う映画やドラマにとって、もっとも重要なのはやはり脚本だ。しかしいくら脚本が優れているからといって、主演俳優が誰であっても成立するものかといえば、そういうわけではない。これは冒頭で述べているとおりのこと。主演俳優と作品の関係は、いくつもの要素が絡み合っては化学反応を起こしたうえで成立している。本作の居心地のよさは、脚本家の兵藤が生み出す世界観と主演の古川の演技が化学反応を起こした結果として、生まれているものだと思うのだ。

 主人公の象子は海外で生まれ、母の故郷である日本に移り住んだものの、その母に捨てられ、母方の叔母に育てられた。現在29歳。非常に優秀なタクシードライバーではあるが、お喋りがうまいわけでもなく、特別に気が利く性格というわけでもない。このちょっと独特な設定を、古川は見事に体現してみせている。

 象子は感情の起伏がほとんど一定だ。彼女は自分のペースというものを持っている。演じる古川のセリフ回しは抑制が効いていて、象子が心の内で何を考えているのかをのぞかせない。だから象子は主人公でありながら、ときにミステリアスにも映る。その一方で、古川の表現はとても淡々としたものではあるものの、他者に対して素っ気なかったり、誰かを置いてけぼりにするようなものではない。

 ただただ、象子のペースを一定に保っているだけ。私たちはこれについていくことができる。古川の演技のテンポが脚本の持つビートと合わさることで、『ミッドナイトタクシー』という作品固有のリズムを生み出しているのだ。もしも象子を演じるのが古川でなかったら、その演技のテンポは異なる。すると当然ながら作品のリズムも変わってくる。つまり私たちが目にしている『ミッドナイトタクシー』は、古川琴音という俳優が主演を務めているからこそ、成立している。無限の可能性の中から、この「名作」は「必然」なものとして誕生したのだ。

 彼女ならではのペースを持つ象子は、素朴だが、とても個性的な人物だともいえる。そして古川は、こういった役どころを演じるのに長けている。

 2024年は特に、“古川琴音イヤー”と呼べるものだった。ヒロインを演じた『ACMA:GAME アクマゲーム』(日本テレビ系)に続き、準ヒロインにあたるポジションを担った『海のはじまり』(フジテレビ系)が放送され、『みなに幸あれ』をはじめとする主要な役どころを務めた映画作品が立て続けに公開されたのだ。

 そして思い返してみると、古川が演じたキャラクターたちの多くが、その人物固有の“テンポ=個性”を持つ存在だった。たとえクセのある役どころだとしても、古川は安易にトリッキーな演技を展開したりしない。各キャラクターの持つペースを維持し、作品世界にじっととどまり続けてきた。そうして彼女は作品のリズムの誕生に与してもきた。そのキャリアの延長線上に、『ミッドナイトタクシー』はある。やはり、古川琴音なくしてこの「名作」は存在しないのだ。本作と彼女の組み合わせは、「必然」なのである。

■放送情報
夜ドラ『ミッドナイトタクシー』
NHK総合にて、毎週月曜から木曜22:45~23:00放送(全32話)
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定
出演:古川琴音、中村蒼、伊藤万理華、小林桃子、和久井映見、竹中直人ほか
作:兵藤るり
音楽:Kan Sano
演出:本田隆一、宝来忠昭、平林克理
プロデューサー:松本太一(WOWOW)、若林雄介(パイプライン)
制作統括:加茂義隆(WOWOW)、樋口俊一(NHK)
写真提供=NHK

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