『風、薫る』りんと直美の間にすきま風 虎太郎の「辞めるやつは辞める」は励ましにならず

 6月30日放送の『風、薫る』(NHK総合)第67話では、りん(見上愛)と直美(上坂樹里)の間にすきま風が吹いた。

 りんは、ヒデ(池田朱那)から看護科を辞めたいと告げられた。理由は「なりたくなくなったんです」というシンプルなもの。「看護婦って何ですか?」と尋ねられ、りんは考え込む。絞り出した「目の前にいる人、弱っている人に手を差し延べられる人」という言葉を聞いて、ヒデの表情がゆがんだ。

 ヒデが思い描いていた看護婦は「人の役に立つ仕事をして女でも生きていける」職業だった。目の前にいるりんは、仕事を抱え込み、看護と奉仕との境界が消失していた。ヒデには、ツヤ(東野絢香)が辞めたこともショックだっただろう。

 直美の説得もむなしく、ヒデは帝都医大病院を去った。もともとヒデの両親は、娘が看護婦になることに反対だった。「女が働ける時間は限られてますから。私は未来の見えないものに時間は使えません」という言い分はもっともである。

 先駆者としての生き方を通して、今作は多くの示唆を与えてくれる。養成所ではゆき(中井友望)が去り、喜代(菊池亜希子)としのぶ(木越明)も別の道へ進んだ。そして、ツヤとヒデである。いくらなんでも退場ペースが速くないかと感じてしまう。しかし、人生は選択の連続であり、ヒデが言うように働ける時間が限られていることを考えると、違う選択はあっていい。何に重きを置くかは各自が決めることだからだ。

 ただし、りんとしては割り切れなかった。何かできたのではないかと自分を責めてしまうのだろう。そんなとき、虎太郎(小林虎之介)が訪ねてくる。製薬会社で働く虎太郎は、幼なじみを見るなり元気がないことを察するのはさすがだ。「しょせん辞めるやつは辞める」と自分の経験を通して励ますが、かえってりんの悩みは深くなった。

 虎太郎は「頑張って」と声をかけるが、このタイミングでかける言葉としては微妙である。すっかり立身出世の人になった虎太郎と、困っている人の助けになりたいりんの言葉は噛み合っていない。虎太郎にせめて聞く姿勢があったらと、少し残念な気持ちになった。

 これに対して、直美のりんに対する接し方には、共有した経験と時間の長さが反映されていた。並んでおにぎりを食べる2人は愚痴を言い合える間柄だ。直美に向けたりんの意地悪は甘えであり、信頼の証でもある。互いを観察することで生まれるシスターフッドがそこにあった。けれども、2人の関係に亀裂が生じかねない出来事が起きる。

 ツヤだけでなく、将来有望だったヒデが辞めてしまったことで、りんは降格を言い渡される。代わりに外科の看護婦取締を兼任するのは直美だった。りんは気にしていないふうを装うが、直美は気まずくなり、2人は互いを避けるようになる。

 考えてみると、看護に対するりんと直美の向き合い方は対照的である。スタンスの違いが端的に表れていたのが2人の会話だった。

「ずっと言おうと思ってたんだけど、直美さんのおにぎり大きくない?」
「小さいよりはいいでしょ」
「大きくも小さくもないのがいいの。でも直美さんにできるわけがない」

 ちょうどいい答え、正解を探してしまうりんと、大きくても小さくても役に立てばいい実用主義の直美。目の前の相手を救いたいりんは、天秤の針が利他の方向を向いている。直美は患者を区別しないから、深入りすることもない。そんなりんと直美は、互いを観察することで足りない部分を補い合ってきた。離ればなれになったら、どうなってしまうのか。看護とは何かをめぐり、主人公2人の関係にとっても重大局面である。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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