「アニメの時代」を振り返る:2016~2026

アニメ史を変えた2016年 『君の名は。』の陰で動きはじめた『名探偵コナン』の巨大興業化

 この連載は2016年からの「アニメの時代」を振り返ろうというものだ。この10年でアニメの興行力は大きく変化した。今やアニメなしに日本の劇場は成り立たないと言えるほどになり、その勢いはグローバルに飛び火している。

 なぜ2016年を区切りの年とするのかと言えば、単に10年という、数字の上での節目だからというだけではなく、この連載の前2回でも大きく取り上げたように、新海誠監督の『君の名は。』の規格外の大ヒットが大きい。ここから世間、そして映画産業のアニメに対する見方は大きく変わった。

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 だが、連載前2回で見てきたように、今アニメの市場は固有の作家による興行の厳しさが指摘されるようになった。新海誠の台頭によってアニメの時代を区切ったわりに、作家のアニメは苦戦を強いられており、むしろ、IP主導の作品が劇場を席巻している。

『君の名は。』©2016「君の名は。」製作委員会

 もしかして、やや見方を変える必要があるのかもしれない。

 「IP」という視点で2016という年を振り返ったとき、『君の名は。』よりも、アニメと映画館にとって重要な作品がある。それは劇場版『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』だ。新海誠という作家の到来を華々しく告げた『君の名は。』の陰で、この作品が今に続くIP興行の時代の到来を告げていたのではなかったか。

 2016年、『君の名は。』の大ヒットで日本の映画はアニメの時代を迎えた。これは間違った見方ではないが、視野を広げる必要がある。2016年とは作家の興行力とIPの興行力がともに発揮された年として、改めて位置づけ直す必要があると筆者は考える。

前作比で約20億円も興行を持ち上げた『名探偵コナン 純黒の悪夢』

劇場版『名探偵コナン 純黒の悪夢』©2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 『名探偵コナン 純黒の悪夢』は、こんなあらすじだった。

 警視庁に何者かが侵入。安室透ら公安警察とFBIの赤井秀一はこれを追うが、犯人は車ごと海に落下して行方不明となる。翌日、コナンたち少年探偵団は、東都水族館を訪れ、記憶を失ったオッドアイの女性と出会う。彼女の記憶を取り戻す手助けをしようとコナンたちは彼女と行動をともにするが、コナンは彼女が何らかの事件に関わっていると推理。

 一方、黒の組織もこの記憶を失った女性を追いかけていた。女性の正体はコードネーム・キュラソーで、組織の命令でスパイをあぶりだすために警視庁のデータを盗み出す任務に就いていた。

 公安警察、FBI、黒の組織がキュラソーを追う中、少年探偵団を守るために行動するキュラソーは壮絶な最期を遂げることとなる。『名探偵コナン』劇場版シリーズでも高い人気を誇る1作で、同シリーズ20本目の記念碑的作品でもあった。

劇場版『名探偵コナン 純黒の悪夢』©2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 本作の興行収入は63億3,000万円を突破(※1)。前作『名探偵コナン 業火の向日葵』の44億8,000万円から一気に20億円近くも興行収入を伸ばす成功を収めたのだ(※2)。同シリーズの興行は、その数年前から少しずつ上昇していたが、2桁億円の上昇を記録したのは、このときが初めてだ。

 この結果には、様々な要因が考えられるが、一つには大掛かりで派手なアクションを中心に物語が展開すること。冒頭、激しいカーチェイスから始まり、随所にアクションと緊張感あるシーンが続き、クライマックスでは巨大な観覧車の崩壊を含めた見せ場が用意される。

劇場版『名探偵コナン 純黒の悪夢』©2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 もう一つの大きな理由は、人気キャラクターが勢ぞろいしたこと。安室が劇場版に初登場し、赤井も本格的な活躍を見せ、2人の対決と危機を前にした成り行きの共闘が描かれる。回想のみとはいえ松田陣平も出てくるし、シリーズを通しての悪役である黒の組織も大きく関わり、このときはまだ正体不明だったNo.2のラムも声のみだが登場するなど、原作の本筋にも踏み込んだ、大がかりな内容だった。

 また本作のゲストキャラクターであるキュラソーと少年探偵団が築く絆とそれに伴う彼女の壮絶な死にざまが感動的で、この1作のみの登場にもかかわらずキュラソーは人気キャラクターとなった。

 黒の組織と公安警察、FBIの対立、スパイ潜入組の危機、さらに安室と赤井のライバル関係など、重層的な人間関係が織り込まれ、娯楽映画として見ごたえのある内容だったと言える。

 同シリーズの大作アクション化は、『純黒の悪夢』の前から進行していたが、その流れを本作の成功が決定づけたと言えるだろう。以降のシリーズはアクションの見せ場を多く用意し、人気キャラクターが持ち回りのように毎回、登場することになった。

 そうして、今では同シリーズはゴールデンウィーク興行の中心的タイトルとしてすっかり定着した。毎年100億円を越える興行成績を安定してたたき出し、2026年の劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』は既存の人気キャラクターがおらずとも興行力が落ちないことを証明している。

 それは、ターニングポイントとなった2016年のこの1本が、原作ファンの期待を裏切ることなく、さらに幅広い観客を楽しませる娯楽映画としての要素に満ちていた上に、キャラクターの魅力と関係性を最大限押し出すことに成功したことが大きかったと思われる。

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