『風、薫る』“シマケン”佐野晶哉の見せ場が増える? “風変わり”な文筆家が活躍の予感

「俺は何者でもない。変わり者の島田健次郎。シマケン」

 りん(見上愛)が勤める「瑞穂屋」に風のようにやってきては、そう意味深な言葉を残して去っていった“シマケン”こと島田健次郎。Aぇ! groupの佐野晶哉が演じるシマケンは、激動の明治の時代の中で変化に立ち止まり、迷いながらも自分の意思を恐る恐る確かめながら進んでいく。ボサボサと頭を掻きむしる姿も印象的で、佐野が飄々と演じる姿も相まって、ミステリアスで隠し事のあるキャラクターとして映し出されてきた。

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第11週「凪にそよぐ」では、そんな風変わりなシマケンがついに今まで躊躇っていた一歩を踏み出す。病院に運び込まれた夕凪(村上穂乃佳)を救う手立ては何かないかと、卯三郎(坂東彌十郎)に相談するりんの話を耳にしたシマケン。小説家を志望する彼はついに「トライ」する決意を固めて、新聞社の編集者に自身が書いた文章を見せたところだった。シマケンが進むと決めた道に、りんの切実な思いが偶然にも交差していく展開となっている。

 最初は、友人の槇村(林裕太)に正体を明かされそうになったとき、シマケンはその言葉を制し、身の上を名乗ろうとしなかった。小説家を目指してはいるものの、今は本望ではない活字工として言葉を拾う日々。忸怩たる思いを抱いていたはずだが、シマケンはふらっとりんの前に現れては、彼女がそのときどきで抱く思い悩みや困り事に対するアドバイスを送る。

 第18話では、看護婦を目指すべきか悩むりんに団子屋の前で出くわした際に「まともなフリをして疲れたから、1トンビしていたところ」だと伝える。「ひとつトンビを飛ばすごとにモヤモヤが晴れること」を意味する1トンビは、以降もモヤモヤとした悩みを抱いたりんがよく口にするようになった象徴的な言葉だった。その後、看護婦養成所に入学したりんがナイチンゲールの本に書かれた「observe」の意味に戸惑っているとき、その訳語が「観察」であることを教えてくれたのもシマケン。言葉に強い興味を持つ彼が途端に饒舌になる姿は、劇中でもたびたび映し出されている。

 しかし、りんのモヤモヤにはすぐに気づき、彼女が前に進んでいく追い風を吹かせるのに対して、霧のように立ち込めた自身のモヤモヤには、どこから手をつけるべきかと悩み続けている。何度もトンビを飛ばした形跡がある部屋がその証拠だろう。

 シマケンは変わり者としてりんからは認識されているものの、実際の彼はどこまでも不器用で、吹き荒れる風の中をさまよう存在だった。槇村の書いた小説が文芸同人誌に掲載されるのを横目に、なおもチャレンジする一歩を踏み出せない。それなのに、りんや一ノ瀬家のこととなると、自然と彼女たちの手助けをしたいと思うのか、絡まっていた手足は自在に動き始める。彼はその理由に気づいていないようだが、周囲の人々には筒抜けだった。りんの妹・安(早坂美海)からも姉への恋心を悟られていることにも気づかぬまま、仲介役として参加したお見合いのシーンでは、安と槇村の兄・宗一(上杉柊平)を置いてきぼりにしてた暴走。まったく隠しきれていないりんに対する思いは膨らみ続け、その場はもはやお見合いどころではなくなってしまう。

 このままでは彼が恋愛に鈍感で、空気の読めない男として周知されてしまいそうだが、ようやく彼にも作家として日の目を見る機会が訪れた。肩書きのない変わり者の男なのか、それとも人の心を動かす文筆家になるのか。第11週は、これからシマケンがどのような存在としてりんと並び立つのか、その真価が問われる週となりそうだ。 

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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