鈴木福×あのが体現する“絶望の青春” TVドラマ版『惡の華』が暴く自意識の正体

 今回の鈴木福演じる春日の柔和な雰囲気は、そうした平凡さを映画版よりも客観的に表現しているという意味で、よりそうしたショックを倍化しているといえる。さらにあのの、非凡な演出を内面化するといった、本人のキャラクターに紐づくイメージも、作品に適合しているといえよう。中学生役がさすがに実年齢とはかけ離れているのは、作品の愛嬌である。

 そんな自意識に絡めた“仲村”のような狂気のヒロインというのは、筆者の青春には登場しなかったわけだが、おそらくそれは、春日に若い時代を投影していた原作者も同じだったのではないかと推察する。ここであのが演じているエキセントリックな存在は、アブノーマルな小説に暗い希望を見出す少年の願望を象徴化させたファンタジーであり、同時に作品をエンターテインメントとして成立させるためのキャラクターであることを理解できるからだ。

 とはいえ、この仲村は、単に願望を基にした都合のいい存在というだけではないだろう。周囲の人々を「クソムシ」と呼んで拒絶する仲村の精神状態は、春日よりもさらに切実ではあるが、同時に日常や凡庸を否定したいと思っている春日とは、根底で繋がっている「ソウルメイト」である。そしてそれは、佐伯という少女に象徴化された“現実の幸せ”の対極にある、非凡でありたいという意識の表れであるともいえる。つまり仲村も春日も、原作者の分身であり、一個人の自意識が分裂化したものだと認識することができるのだ。

 しかし、そんな少年の自意識が、作中で一つの青春の残滓のように扱われてしまう物語は、受け手に何を作用させようとしているのだろうか。平凡な山間の街に咲く、象徴主義の画家オディロン・ルドンの挿絵を模したイメージとしての“惡の華”……それは大人に成長し、いつか日常の生活に追われるなかで枯れてしまう、一時の「徒花(あだばな)」に過ぎないのだろうか。そして、「自分以外にも、こうして何かの作品に触れ、優越感や疎外感を持ってた人っていたんだ」っていう気持ちを、複数の人が感じていたということに気づくというプロセスは、ある意味で本質的に、春日がソウルメイトである仲村に出会うことで、自分だけではないという境地に近づくことにも近く、“非凡さへの憧れ”そのものも凡俗にまみれていく。

 映画版の鑑賞時には、そうした自意識を鏡のように見せつけられることで、スクリーンを直視するのが難しいほど冷静でいられなかった筆者だが、しかし、このドラマ作品を観ることで、当時よりは落ち着いた気持ちになることができている。というのは、やはり春日や仲村の青春というのは、少なくとも“それなりには非凡”とは言えるのではないだろうかと思い直せたからだ。なにせ、最近ではもはや読書自体が忌避され、かつて平凡と見られていた中産階級的な生活が、かなり努力しなければ得られないものになってきているような世の中なのだ。そんな社会に身を置きながら自分の特殊性を信じるということは、ある意味で“日常へのささやかな抵抗”として機能するのではないか。

 “惡の華”のイメージは、単なる幻想であり、ささやかではかない願望に過ぎないのかもしれない。しかし、「自分が非凡である」といった勘違いを、どこか心の片隅にでも残しておかなければ、一時でも勘違いをしてしまったわれわれの精神は終わってしまうのではないか。それがなくなってしまったとき、国家や共同体、カルト宗教やマルチビジネスといったものに、自分のアイデンティティを捧げ、共同体そのものが非凡であるという、より悪質な幻想に振り回され、利用されてしまうかもしれない。それが、いまの最も愚かな“凡庸”であろう。

 大人になっても、自分の才能や個性が非凡であるということを、どこかで信じていたい。そういうアイデンティティや願いを持つことは、心の中に、現実に対抗する力と意志を持つことである。そうすることができれば、たとえ小さなものであったとしても、“惡の華”は、永遠に枯れずに咲き続けるのである。

■放送情報
『惡の華』
テレ東系にて、毎週木曜24:00~24:30放送
BSテレ東にて、毎週水曜24:00~24:30放送
ディズニープラス スターにて、各話放送後からアジア見放題独占配信
TVer、ネットもテレ東、Leminoにて見逃し配信
出演:鈴木福、あの、井頭愛海、須藤千尋、中西アルノ(乃木坂46)長谷川朝晴、中越典子、紺野まひる、堀部圭亮、雛形あきこほか
原作:押見修造『惡の華』(講談社『別冊少年マガジン』所載)
脚本:目黒啓太、たかせしゅうほう
監督:ヤングポール、井口昇
プロデューサー:漆間宏一(テレ東)、涌田秀幸(C&Iエンタテインメント)
主題歌:ano「愛晩餐」(トイズファクトリー)
音楽:たかはしほのか(リーガルリリー)
エンディング:majiko「クライクライ」(UNIERA / Bandai Namco Music Live Inc.)
制作:テレビ東京、C&Iエンタテインメント
製作著作:「惡の華」製作委員会2026
©「惡の華」製作委員会2026 ©押見修造/講談社
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/akunohana/
公式X(旧Twitter):https://x.com/tx_akunohana
公式Instagram:https://www.instagram.com/tx_akunohana/

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