松田陣平はズルいくらいカッコいい 『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』で上がった解像度
歴代1位の初動を記録している、劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』。第29作目となる本作は、劇場版初登場となる神奈川県警交通部第三交通機動隊の小隊長・萩原千速をキーパーソンに据え、彼女の亡き弟・研二との記憶に深く焦点が当てられている。そして同時に、本作は研二の隣に常にいた同期であり親友・松田陣平の思わぬ発言によって、彼のキャラクター性もまた、これまでにないほど高い解像度をもった作品になったように思う。
松田陣平とは、どんな男だったか。彼の「素」の姿が最も色濃く描かれた『名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story』や、研二を失ったあとの“空白の4年間”であると同時に彼にとっての“最期の一週間”を捉えた劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』そして「揺れる警視庁 1200万人の人質」を振り返ってみたい。
※本稿には『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』のネタバレ、および原作第1156話への言及があります。
松田といえば、『名探偵コナン』の作品の中でも屈指のワイルドな美形キャラだ。天然パーマの黒い髪と、黒いサングラス、黒いスーツを着こなした出で立ちが印象的な彼。しかし、彼は最初からクールなキャラクターだったわけではない。
警察学校時代の松田は、プロボクサーだった父が誤認逮捕された過去から警察という組織そのものに強烈な反発心を抱き、同期の降谷零とは初日から殴り合いの喧嘩を起こすほどの問題児だった。協調性も欠けていて、荒々しい。しかし、その傍若無人な態度の裏には、一度懐に入れた人間に対しては絶対に裏切らない、熱い人柄と不器用な優しさが隠されていた。類まれなる手先の器用さで何でも分解してしまう「分解魔」でありながら、仲間への想いは誰よりも真っ直ぐに組み立てていく。降谷、伊達航、諸伏景光、そして誰よりウマの合った幼馴染の萩原研二。彼らと過ごした青春の日々の中で見せた、あの粗削りで人間臭い笑顔こそが、松田という男の核だったように思う。
そんな粗削りの青年は、やがて警視庁爆発物処理班のエースとなり、成長を遂げた。『ハロウィンの花嫁』では凶悪な連続爆弾魔「プラーミャ」と会敵し、丸腰でも喧嘩を売る度胸もすごかったが、自身の命が危機に晒されている極限状態にあっても一切の焦りを見せず、亡き親友の研二の行動を思い出してガムを使った機転で罠を防ぎ、冷静に対処した。そこで描かれたのは、警察学校時代に培った仲間への絶対的な信頼と、市民を守るという警察官としての揺るぎない覚悟である。この圧倒的なまでの「かっこよさ」と、自己犠牲すら辞さない危うさ。それでいて飄々としている。そんな印象だった松田のあまりにも純情で、そして痛ましいほどに義理堅い“一人の男”としての姿が『ハイウェイの堕天使』で浮き彫りになった。
横溝重悟を牽制した“あの電話越しのセリフ”
劇中、最も印象的だったのはやはり、「ウェディングドレスの千速をお姫様抱っこするのは、俺だ」という松田の発言だろう。原作1156話で描かれたお祭りでの告白エピソードからもわかる通り、千速は松田にとって紛れもない初恋の人だ。なんといったって、小学生の頃に千速に一目惚れして以来、彼女のことがずっと好きなのだ。だから、この「ウェディングドレス」という言葉選びからは、単なる淡い初恋の域を超え、彼が本気で彼女との将来を見据え、その想いを何年にもわたって重く、深く温め続けていたことが痛いほどに伝わってくる。警察学校で見せていたあの照れ隠しのようなぶっきらぼうさの裏で、彼は一人の女性をこれほどまでに一途に想い続ける青年だったのだ。
年下の弟の生意気な友人から、真っ直ぐな愛情を向けられ続けた千速の心境はどうだったのだろう。お祭りの告白エピソードから、千速は彼とデートをしたいわけでもなかったし、松田と同い年の弟がいるせいで恋愛相手に見られなかったかもしれない。彼女の感情の所在は、誰も知る由がない。
しかし、彼らの関係性は研二の爆死という出来事によって無残に打ち砕かれる。研二の死後、松田が強行犯係へ異動するまでの「空白の4年間」。『ハイウェイの堕天使』が提示した最大の悲劇性は、この期間に彼が千速との恋愛を一切進展させなかった、いや、“できなかった”という事実にある。
千速のもとへ赴き、研二の訃報を伝えたのは他ならぬ松田であった。本来なら警視庁から神奈川県警への業務上の報告で済むはずの事柄を、わざわざ自らの足で伝えに行ったことの意味は重い。自身の半身を喪ったに等しい絶望の中で、愛する女性に最悪の事実を突きつける役割を自ら引き受けた彼の胸中はどれほどのものだったのか。『警察学校編』をはじめ、千速や降谷の回想で見せた、あのどうしようもないほどの義理堅さを思えば、彼のその後の行動の理由も自ずと見えてくる。