『マーティ・シュプリーム』は美しき“勝者”の物語 ジョシュ・サフディ監督インタビュー

 ティモシー・シャラメが3度目のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたことでも話題になった『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、卓球の世界チャンピオンになって人生一発逆転を目指すマーティ・マウザーの姿を描いた物語だ。監督を務めたのは、これまで弟のベニー・サフディと共に『神様なんかくそくらえ』『グッド・タイム』『アンカット・ダイヤモンド』などを手がけてきたジョシュ・サフディ。世界的な大ヒットを記録した本作について、来日を果たした彼に話を聞いた。

「自分が撮る作品はすべてブロックバスターだと思っている」

ーー全世界興収1.47億ドルを突破し、A24作品史上最高の興行収入を記録したことも話題となった本作ですが、監督自身はここまでのヒットになることは予想していましたか?

ジョシュ・サフディ(以下、サフディ):正直、ここまでのヒットになるとはまったく予想していませんでした。自分自身でも驚いていますし、この結果にとても勇気づけられます。ただ、僕は自分が撮る作品はすべてブロックバスター(超大作)だと思っています。以前、僕が自分たちの初監督作品と2作目の監督作品について“ブロックバスター”だと言ったら、とある撮影監督に「あんな小規模なパーソナルな作品をブロックバスターだと思っていたの?」とからかわれたことがありましたが……(笑)。いずれにせよ、僕は自分にとって意味のあることであれば、誰か他の人にとっても意味があるに違いないと思っているんです。そういう信念を持って映画を作っているので、常に“自分たちの映画は間違いない”という自信は持っています。とはいえ、ここまでのヒットは驚きですね。頭が爆発しそうです(笑)。

ーー僕もこの映画にとても惹かれた1人なのですが、監督自身はこの作品がこれだけ多くの人に受け入れられた理由をどう見ていますか?

サフディ:ひとつは、いま僕たちが生きている世界がニヒリズムに溢れているからだと思います。人と人とのつながりが薄れて、敵対的な世界の中で生きている。誰に対しても無関心で、もはや現実的ですらないと思ってしまいます。そういう世界において、夢は伝染力を帯びるもの。僕自身もそうですが、多くの人はマーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)の姿に勇気づけられるんだと思います。夢のために一生懸命になったり、未来のために必死になって生きる。そういう人の姿というのは、やはり魅力的に映りますし、とても美しいものですよね。

ーーまさにその通りだと思います。

サフディ:テーマ以外で言うと、この映画の“スピード感”も大きいと思います。今の生活のペースやリズム感、そしてマーティの結果を顧みない姿勢が、特に若い人たちの共感を呼んできたのだと思います。若い頃は、理屈ではわかっていても、結果に対する感覚やその重みの理解は限られていると思います。世界があまりにも広いから、ある場所で失敗しても、別の場所へ行けば、その失敗はそこでは何の影響も持たないように感じられる。だから結果というものは軽く見えがちなんですよね。でも年を重ねるにつれて、それらはどんどん小さくなっていき、結果はより重大で、より深刻なものになっていくことに気づくんです。

ーー監督はこれまでも一貫して“人間”を描いていますよね。しかも彼らは、どんどん危ない状況に陥っていきます。

サフディ:僕は人の“執着”や“情熱”にとても興味があるんです。情熱を持ち続けるためにアートに目を向けていますし、盲目的に夢を追う人たちにとても関心があります。そういう生き方に惹かれてきましたし、常に何かを超越したいという気持ちがあるんです。前作の『アンカット・ダイヤモンド』はギャンブル中毒者についての映画で、これは愛情を込めて言いますが、主人公のハワード(アダム・サンドラー)は“敗者”でした。結局のところそれが彼の本質であり、人生における立場でもありました。一方で、『マーティ・シュプリーム』のマーティについては、多くの人たちは彼を同じく“敗者”として見ると思いますが、僕は彼を“勝者”だと思っています。そう、これは“勝者についての物語”なんです。もちろん、彼を取り巻く女性たちにとっては全くそうは思えないでしょうが、マーティの姿はとても美しい。そういう意味では、僕の作品に登場するキャラクターたちには、病的なまでに夢を追い続けるという共通点があると言えます。彼らの内面を徹底的に理解したいという欲求から、そういう人物を描き続けているんだと思います。

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