日米ハーフの私が観た『アメリと雨の物語』 “2歳の神”が教えてくれたアイデンティティ
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた佐藤が、アニメーション映画『アメリと雨の物語』をプッシュする。
『アメリと雨の物語』
1960年代の神戸を舞台に、日本で生まれたベルギー人の少女・アメリの“目覚め”と成長を描いた本作は、アメリー・ノートンによる自伝的小説『チューブな形而上学』を原作としたアニメーション映画である。物語は、外交官の家庭に生まれたアメリが、2歳半まで無反応の状態にあったところから始まる。だが、ある瞬間をきっかけに彼女は世界を認識しはじめ、自らを“神”だと信じる無敵の子ども時代へと突入する。2歳半の少女の視点から「生命」や「色彩」、そして「言葉」を見つめ直すユニークな作品となっている。
個人的な話になる。私はアメリカ人の父と日本人の母のもとに生まれ、日本で育ってきた。生活の基盤も、言語も、日常の感覚も日本にあるため、自分のアイデンティティは日本人だという自覚が強い。だが一方で、米軍基地の中のバレエスクールに通っていたことや、父の故郷であるアメリカで家族と食卓を囲んだ記憶も確かに自分の中に残っている。食事の前に祈りを捧げる時間、言葉のリズム、空気の違い。そのどちらもが「自分の居場所」だと感じる瞬間がある。本作で描かれる、ベルギー人のアメリが世界を認識し、日本で自分という存在を少しずつ形作っていく過程は、そうした自身の記憶とも重なった。
なかでも印象的なのは、日本人家政婦・ニシオさんとの関係だ。アメリを「アメちゃん」と呼び、やさしく見守るニシオさんが、雨の日に窓ガラスへ指で「雨」と書いて見せるシーン。アメリの名前と“雨”という言葉が結びつくその瞬間は、言葉が世界を意味づける決定的な出来事として、美しく描かれている。言葉を知ることは、世界を知ること。そのシンプルでいて、とてつもなく大きな出来事が起きているのだという感覚を、2歳半のアメリの視点で見事に映像化している。
さらに特筆すべきは、日本の描写の丁寧さである。監督は『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』に参加したマイリス・ヴァラードとリアン=チョー・ハン。「私たちにとって日本というのは特別な立ち位置がある大事な国です」と語っている通り(※)、日本文化への深い関心とリスペクトを持つ2人の視点が、本作の世界観をかたちづくっている。外国人の視点から描かれる日本は、ときに“なんちゃってJAPAN”になりがちだが、本作にはそうした違和感がほとんどない。日本庭園や襖や縁側のある家屋、灯籠流し、鯉のぼり、そして四季の移ろい。何より、アメリの目に映る世界はどこまでも鮮やかで、すべてが新しく、まぶしい。
しかし、3歳の誕生日に人生を変える出来事が起こり、彼女の世界は大きく変わっていく。それに呼応するように、映像の色彩もあたたかな色合いからどこか冷たいトーンへと移ろっていく。色彩の美しさは、この作品の大きな魅力のひとつであると同時に、アメリの内面の変化そのものを映し出す重要な要素となっている。
家族のルーツとは異なる文化の中で育つということは、決して特別なことではないのかもしれない。そしてそれは、日本人が日本で育つ場合であっても同じことだろう。どのように世界を見て、何を自分の当たり前として受け取っていくのかは、人それぞれ異なる。本作は、その最初の感覚を思い出させてくれる作品である。私にとってそうであったように、きっと誰もが、自分なりのルーツと向き合うきっかけになるはずだ。
参照
※ https://2025.tiff-jp.net/news/ja/?p=68070
■公開情報
『アメリと雨の物語』
公開中
声の出演:ロイーズ・シャルパンティエ、ヴィクトリア・グロボア、ユミ・フジモリ
声の出演(吹替版):永尾柚乃、花澤香菜、早見沙織、深見梨加、森川智之、日笠陽子、青木遥、北林早苗
監督:マイリス・ヴァラード、リアン=チョー・ハン
原作:『チューブな形而上学』アメリー・ノートン著
音楽:福原まり
配給:ファインフィルムズ
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ、駐日ベルギー大使館
2025年/フランス/フランス語・日本語/77分/カラー/G/英題:Little Amélie or the Character of Rain
©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
公式サイト:littleamelie-movie.com