『サラ・キムという女』に深みをもたらすイ・ジュニョク 画面を支配する“危険な色気”
その変化を語るうえで欠かせないのが、昨年の出演作『わたしの完璧な秘書』での鮮やかなイメージ刷新である。端正な顔立ちと高身長、スーツが似合う佇まい。かねてより本格的なメロドラマでの活躍を待ち望まれてきた俳優である。その期待に応えるかたちで、満を持して臨んだのが『わたしの完璧な秘書』だった。
本作でイ・ジュニョクは、ヘッドハンティング会社のCEOカン・ジユン(ハン・ジミン)を支える秘書ユ・ウノを演じた。仕事では完璧なサポートを見せ、私生活ではシングルファザーとして幼い娘を慈しむ。そこには、これまでの彼が纏っていた鋭利な空気はなく、大人の余裕と色気がにじんでいた。視聴者は「こんなイ・ジュニョクが見たかった」と歓喜し、SNSでも“理想の男性像”として大きな反響を呼んだ。
象徴的なのは、ジユンとのすれ違いの末に迎える横断歩道の場面だ。想いを告げたあと距離を取るジユンと、娘を持つ身として一歩を踏み出せずにいたウノ。だが、互いに相手を探して街へ飛び出し、信号が変わった瞬間、ウノは迷いを振り切るように歩み寄り、ジユンを抱きしめる。
普段は秘書として一歩引き、相手を立ててきた男が、初めて“男”として正面から向き合った瞬間。戸惑うジユンを包み込むように抱き寄せるその佇まいには、確かな大人の余裕と静かな色気が宿っていた。それは単なるロマンスの成功ではない。イ・ジュニョクが、危うさだけではない包容力を自らの武器として獲得した転換点でもあった。
こうして彼のキャリアを振り返ると、『サラ・キムという女』で見せる「危うさと余裕の共存」も、必然だったのだと分かる。物語は、サラ・キムの人生をめぐる回想と、ムギョンが関係者に向き合う対話シーンによって進んでいく。ともすれば冗長になりかねない取調室や聞き込みの場面が常に張り詰めた空気を保ち続けるのは、イ・ジュニョクが醸し出す緊迫感ゆえだ。そこには“危うさ”の名残がありながら、それを制御する理性と、相手を飲み込むような余裕がある。
危うさと余裕。その両方を手に入れた今のイ・ジュニョクだからこそ、画面は静かに、しかし確実に引き締まる。 彼はただサスペンスに戻ってきたのではない。いくつもの進化を経て、より深く、より危険な香りを纏った姿で帰ってきたのだ。
■配信情報
『サラ・キムという女』
Netflixにて配信中
出演:シン・ヘソン、イ・ジュニョク
制作:キム・ジンミン、チュ・ソンヨン