杉咲花は令和の“小悪魔女子”? 『冬のさ春のね』と『モテキ』に共通するヒロイン像

 ここで思い出されるのが、恋愛ドラマにおける「THEモテ女子像」の代表格、映画『モテキ』(2011年)の長澤まさみだ。長澤が演じたヒロインの松尾みゆきは、明るく、よく笑い、感情表現も豊かで色っぽい。「魅力的であること」が誰の目にも分かる存在だった。男性視点で見た理想のヒロイン像が、比較的ストレートに提示されていた時代の象徴である。

 一方、杉咲花の土田文菜は、感情を過剰に説明しないし、恋愛そのものが人生の中心に置かれている印象もない。優しすぎるゆきおのことは大切に思っているが、友達のように振る舞えて、多少強く出ても自分を嫌いにならない楽さのある小太郎に甘えてしまうし、「帰る場所」があるからこそ、誠実とは言えない山田の思わせぶりに、ほんのり浸ることもできてしまう。そうして生まれ出た自分の感情を、延々とループするように考え続けている。

 このナチュラルな狡さと、一生懸命に生きている素直さ。その両方が同時に存在しているところに、文菜というキャラクターの色気がある。彼女の魅力は、ステレオタイプな「小悪魔女子」の恋愛テクニックではなく、「生き方そのもの」から滲み出ているのだ。

 この変化は、単なるキャラクター造形の違いというより、恋愛観そのもののアップデートを映しているようにも思える。かつての恋愛ドラマにおいて「モテ」とは、いかに他者から求められるか、いかに愛される存在であるかが重要だった。しかし現代のヒロイン像は、必ずしも“他者からの評価”を軸にしていない。むしろ、自分の感情や生活を優先し、その結果として誰かに好意を向けられる、という構図が増えている。

 今泉力哉作品のヒロインに共通しているのも、この「自己完結性」だろう。彼女たちは、誰かのために存在しているのではなく、自分自身の生活と感情の延長線上に恋愛がある。だからこそ、過剰に媚びることもなく、分かりやすく愛想よく振る舞うこともない。時に怒り、時に泣き、時にダサくもなる。その“自然体すぎる距離感”が、リアルで、そして現代的な魅力として映る。

 『モテキ』の長澤まさみが体現していたのが、恋愛ドラマ黄金期の“理想のヒロイン像”だとすれば、『冬のなんかさ、春のなんかね』の杉咲花は、恋愛が人生の中心ではなくなった時代のヒロインだ。モテることにそれほど価値を置かず、自分の生活を大切にしながら、それでも誰かと関係を結んでしまう。恋愛的な魅力よりも、人間的な魅力。杉咲花演じる土田文菜は、その曖昧で矛盾だらけな人間味そのものが、「令和のモテ」を象徴する存在なのかもしれない。いわゆる「今っぽいモテ女」を演じる杉咲花がこの先どうなっていくのか、ゾクゾクさせられる気持ちでいっぱいだ。

冬のなんかさ、春のなんかね

小説家で古着屋バイトの主人公・文菜は、過去の経験から恋人と真剣に向き合うことを避けていた。そんな文菜が自分の恋愛を見つめ直していく。演出には、映画監督の山下敦弘と山田卓司も参加している。

■放送情報
『冬のなんかさ、春のなんかね』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00~放送
出演:杉咲花、成田凌、岡山天音、水沢林太郎、野内まる、志田彩良、倉悠貴、栁俊太郎、細田佳央太、内堀太郎、林裕太、河井青葉、芹澤興人
脚本:今泉力哉
監督:今泉力哉、山下敦弘、山田卓司
音楽:ゲイリー芦屋
主題歌:Homecomings 「knit」(IRORI Records / PONY CANYON)
プロデューサー:大倉寛子、藤森真実、角田道明、山内遊
チーフプロデューサー:道坂忠久
制作協力:AX-ON、Lat-Lon
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/fuyunonankasa/
公式X(旧Twitter):https://x.com/fuyunonankasa
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