『ばけばけ』の料理はなぜ心に残る? “大阪朝ドラ”広里貴子の丁寧な仕事ぶりが光る

 また小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルにした本作では、日本と西洋の食文化の違いも描かれている。例えば、第23話ではヘブン(トミー・バストウ)が花田旅館で提供された糸こんにゃくの煮物にひどく怯えるシーンがあった。これは史実に基づくエピソードで、ハーンは虫を連想させる糸こんにゃくが苦手だったという。ちなみに、こんにゃくを食用として栽培しているのは日本と中国の一部で、定着したのは日本だけ。近年は欧米でヘルシーフードとして人気を集めているこんにゃくだが、当時の外国人にとっては得体の知れないものだったのかもしれない。

朝ドラ「ばけばけ」公式 Instagramより

 ヘブンの壮絶な過去が明らかになった第53話では、彼の元妻マーサ(ミーシャ・ブルックス)が作ったディナーが登場。『ばけばけ』の公式Instagramに公開された写真には、シチューを中心にパンとベーコン、ポテトが並んでおり、コメントで「マーサさんの作るシチューには動物性の食品が使われていません。ベーコンはヘブンさん用です」と裏設定が明かされている。つまり、マーサはヴィーガンで、ヘブンのためだけにベーコンを用意したということだ。「人種、文化、習慣、考え方。異なるものをお互いに受け入れて、共に生きようとする二人の思いが、料理にも込められました」というコメント、またその後、2人が人種差別によって引き裂かれることを踏まえると、料理の見え方も変わってくる。

 『ばけばけ』では、人と人の距離が縮まるシーンで食事が登場することが多い。松野家の遠縁の親戚にあたる雨清水家の当主・傳(堤真一)と妻・タエ(北川景子)の娘として生まれ、子供に恵まれなかった司之介とフミ(池脇千鶴)に養女として引き取られたトキ。そのことに本人は薄々気づいており、傳が病で倒れた際には看病を買って出る。第14話において、トキが傳におかゆを食べさせてあげようとし、お互いに照れくさくて笑ってしまうシーンや、タエがトキに教わり、慣れないながらもしじみ汁を作るシーンは、初めて親子のように過ごせる3人の喜びが溢れていた。

 トキとヘブンの結婚パーティーにはお祝いの料理がずらりと並んだ。魚介類やキノコ類を奉書紙で包み、天火で蒸し焼きにした奉書焼き、柿と大根の紅白なます、扇型や花型にかたちづくられた箱寿司、黒田セリのおひたしなど、どれも島根県の郷土料理だ。そこに加えられた、“エッグスフーフー”こと目玉焼きは松野家のヘブンに対する「歓迎」の気持ちが込められているのだろう。マーサがヘブンのためにベーコンを用意したように、これから共に生きていくという覚悟の表れだ。

朝ドラ「ばけばけ」公式Instagramより

 ちなみに、ハーンは松江に来た当初こそ日本食を頑張って食べていたが、消化不良を起こして体調を崩し、トキと結婚後、西洋の食材が揃う熊本に引っ越したのを機に洋食に切り替えたそうだ。セツは回想録『思ひ出の記』で「(夫は)洋食ではプラムプディングと大きなビフテキが好きでございました」と記している。今後はトキが洋食を作るシーンも登場するのではないだろうか。トキとヘブンが夫婦となり、2つの食文化が少しずつ融合していく過程が楽しみだ。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/10/post-2188565.html

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

関連記事