木村拓哉という“プロフェッショナル” 『マスカレード・ナイト』などから読み解く仕事人像
木村拓哉と同世代のスター俳優たちは、恋愛の成就や家族との和解、失われた自己を取り戻すまでのプロセスなど、感情や関係性を物語の中心に据える役柄を多く引き受けてきた。ドラマの重心は、常に個人の内側に置かれていたのである。
それに対して木村拓哉は、常に「役割を引き受けること」を軸にした人物像を演じ続けている。『マスカレード・ナイト』の新田浩介も、その延長線上にあるひとり。刑事という役割を保ったまま、ホテルという特殊空間のルールを理解し、その枠内で自分の仕事を遂行していく。彼は特別なヒーローではなく、与えられた役割を全うするプロフェッショナルなのだ。
もちろんそれは、木村自身の芝居に対する姿勢と共振しているのだろう。共演した長澤まさみは、「現場での居方や、人間性も。そばでお仕事をさせてもらって、木村さんはプロフェッショナルな姿勢で、ずっとやってこられたんだと感じることがたくさんありました」(※1)とコメント。
木村拓哉が語る『風間公親-教場0-』と前2作との違い テレビドラマの見方の変化も
木村拓哉が主演を務める4月期のフジテレビ系月9ドラマ『風間公親-教場0-』。本作は、長岡弘樹のベストセラーを原作とし、2020年…『風間公親-教場0-』(2023年/フジテレビ系)で共演した北村匠海は、「リハーサルの一発目から完璧な流れで、なおかつ本気でやられていて、そのアクション部への信頼など、すべてがプロフェッショナルだなと思いました」(※2)と語り、『Believe-君にかける橋-』で木村の妻を演じた天海祐希は、「最初は“木村拓哉さんだ”と思ってお芝居してたんですけど、とことんプロフェッショナル。熱量と現場を引っ張る力があって、それに引っ張ってもらっています」(※3)と発言している。
『教場』シリーズの中江功監督も、「せりふや動きを含め、自分のミスを許さない、一言で言うとプロフェッショナル」(※4)と絶賛し、スタッフサイドからの信頼も厚い。
そして、最新作『TOKYOタクシー』(2025年)で木村拓哉が演じるのは、タクシー運転手の宇佐美浩二。彼は、柴又から神奈川・葉山にある高齢者施設まで、85歳の女性・高野すみれ(倍賞千恵子)を送り届ける依頼を引き受ける。映画は、この長距離移動を一本の軸として進行していく。
『HERO』の検事、『教場』の教官、『グランメゾン東京』のシェフが、それぞれの現場で判断を重ねてきたように、『TOKYOタクシー』ではその現場が一台の車内へと極限まで縮小される。運転、ルート選択、車内での応対。ここでも描かれるのも、プロがプロの仕事をする姿だ。『武士の一分』(2006年)以来、久々に木村拓哉と組んだ山田洋次監督は、「彼は現場ではとっても誠実で、クソの字がつくぐらい真面目だね」(※5)と語っている。名匠はその実直さを見抜いたうえで、決して華やかではない職業人という役割を与えたのだろう。
スターでありながら、物語の中心に「自分」を置かず、常に「役割」を演じ続ける。“ミスター・プロフェッショナル”という呼び名が、彼ほど自然に当てはまる俳優はいない。
参照
※1. https://eiga.com/movie/87994/interview/※2. https://www.fujitv.co.jp/kyojo0/news/news03.html
※3. https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2024/04/18/articles/20240418s00041000539000c.html
※4. https://mantan-web.jp/article/20201231dog00m200027000c.html
※5. https://www.cinematoday.jp/news/N0152046
■放送情報
土曜プレミアム『マスカレード・ナイト』
フジテレビ系にて、12月27日(土)21:00~23:40放送
出演:木村拓哉、長澤まさみ、小日向文世、梶原善、泉澤祐希、東根作寿英、石川恋、中村アン、田中みな実、石黒賢、沢村一樹、勝村政信、木村佳乃、凰稀かなめ、麻生久美子、高岡早紀、博多華丸、鶴見辰吾、篠井英介、石橋凌、渡部篤郎
原作:東野圭吾『マスカレード・ナイト』(集英社文庫刊)
脚本:岡田道尚
監督:鈴木雅之
音楽:佐藤直紀
配給:東宝
©2021東野圭吾/集英社・映画「マスカレード・ナイト」製作委員会