『ばけばけ』制作陣も“最終回”と思われることを心配? 完璧な“年内最後”の舞台裏
髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。
トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)がついに結ばれた第65話。銀二郎(寛一郎)らと花田旅館で別れたのち、ヘブンを見送るトキの涙が物語を大きく動かした。
このシーンについて、演出の村橋直樹は「僕はこのドラマの中で、髙石さんに『すべてを任せるから』と、5分以上カメラを止めなかった場面がふたつあるんです。ひとつは第7週で、三之丞(板垣李光人)にお金を渡したあとのトキが、『私はラシャメンとして生きていくしかない』と川の土手を歩いているシーン。そしてもうひとつが、この橋の上で涙を流したシーンです」と振り返る。
「具体的に『こうしよう』みたいなことは伝えずに、『ヘブンさんが何も言わずに去ったあと、何を感じるだろうね』と話をして。髙石さんは瞬発力もあるけれど、時間をかけると深い感情が出てくる方でもあるので、本編で使用した涙を流すカットまでに3分くらいはかかったと思います。とはいえ、台本には涙を流すとは書いていないんですけどね。髙石さんは『なんで泣いたんだろう。私、好きだったんだ、ヘブンさんのことを』と言っていました。彼女から気持ちが溢れた、見事なシーンになったと思います」(村橋)
そして第65話のラストを飾ったのは、初めて宍道湖で撮影されたという夕日の場面。湖畔がコンクリートで整備されていることもあり、これまで湖のシーンは琵琶湖で撮影されてきたが、今回は演出の工夫によって宍道湖でのロケが実現。トキとヘブンが手をつなぎ、最後に太陽だけが残る美しい画は、2人の門出を象徴するシーンとなった。
村橋は「あのシーンは、小泉八雲さんが“蕎麦屋から見るのが好きだった”という景色と、ほぼ同じ方向から撮っているんです。2人が見たであろう景色であることを髙石さんとトミーさんにも伝えて、その姿を遠くから撮らせてもらいました」とし、最後に手元だけを映した演出については「ただ一番美しいものを撮っただけと言いますか。表情は見なくてもわかるので、わかっているものを見せるのも蛇足だと思いますし、人間の英知が及ばぬ雄大さを背景に、2人を遠くから見つめた映像で終わりたいと思いました」と思いを語る。
「手元のカットだけは分けて撮っていますが、基本的にはすべて一発撮りなんです。夕日とはいえ時間との戦いも特になく、『なかなか暮れないね』と言いながらいいところに太陽が来るのを待って、『さあ、やろうか』『いいね』で終わる感じでしたね。慌ただしくもなく、すごく豊かな時間だったと思います。(演出面でも)2人は橋の上のシーンを先に撮っていましたし、もう手をつなぐだけだよね、と。実は、橋の上のシーンの後にも手をつなぐところを撮ったんですが、『これはちょっといいところに取っておこう』ということで、最後に持ってくることにしました」(村橋)