寛一郎、『ばけばけ』再登場で注目 大河&朝ドラW出演を果たした2025年の活躍を振り返る

 さらに、NHKの放送100年を記念した特集ドラマ『火星の女王』では、途轍もないスケールで描かれるSFエンターテインメント作品において、火星で探索を行う科学者カワナベ(吉岡秀隆)の助手であるAJを演じている。

 火星最大の企業であるホエール社に所属するAJは、登場時は軽薄な話ぶりが目につくものの、誰かを貶めるような男には見えなかった。しかし、CEOのルーク・マディソン(デイェミ・オカンラウォン)とともに暗躍し、惑星間宇宙開発機構・ISDAと裏で繋がっていると思しき描写もある。敵なのか味方なのか。寛一郎はあくまであいまいな境界線に立ち続けるAJの思惑を上手く隠しながら、腹に一物ある彼を魅力的なキャラクターに仕立て上げている。

 そして、寛一郎の演じる役柄の幅広さに唸らされたのが、呉勝浩のベストセラー小説を原作とした映画『爆弾』で演じた、野方警察署の巡査長・伊勢。霊感で爆破事件を予知して、無抵抗の警察を逆撫でする言動を繰り返すスズキタゴサク(佐藤二朗)の調書をとる伊勢は、薄気味悪い風貌の彼を蔑みの目で見ていた。

 しかし、伊勢はタゴサクの自虐的な言動に油断して、無邪気さと不気味さが混じる巧みな話術の罠にハマってしまう。ある種の噛ませ犬のようなキャラクターと言えるが、だからこそ、凛々しい眼差しと静かな落ち着きをもたらす声を持つ寛一郎が、自身の行いに狼狽して取り乱す伊勢をここまでのリアリティで演じるとは思わなかった。

 手柄を奪った負い目のある野方署の同期・矢吹(坂東龍汰)に情報を共有した伊勢は、物語が進んでいくにつれてタゴサクの不穏な発言に取り込まれていった結果、最悪の事態を引き起こしてしまうことになる。呆気に取られた顔が絶望に塗り替わる一連のシーンは、寛一郎の表情管理によって、いっそう伊勢の滑稽さが際立っていたように思う。

 翌年には、映画『ファントム・スレッド』(2018年)のヴィッキー・クリープスと共演し、第78回ロカルノ国際映画祭でも上映された映画『たしかにあった幻』の公開も控えている寛一郎。本作では、フランスから来日した主人公のコリーが訪れた屋久島で、運命的に出会いを果たす青年・迅を演じており、危うくも謎めいた雰囲気をまとう彼の胸中を寛一郎がどのように表現するのか。楽しみは尽きないが、『ばけばけ』への再登場も追い風にして、2026年はさらなる飛躍を遂げる予感が漂っている。

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