日航機墜落事故は明石家さんまにどんな影響を与えたのか? 坂本九との“知られざる運命”

 しかし、同1985年8月12日、日本航空123便が消息を絶ったというニュースが走る。乗客乗員524人を乗せた日本航空史上最悪の事故に、「坂本九も乗っているらしい」「さんまも毎週その便に乗っている」という情報が錯綜し、現場は一気に緊迫していく。実際、さんまは大阪のラジオ『MBSヤングタウン』に出演するため、毎週月曜日に18時12分発の123便を利用していた。だがこの日はスケジュールの都合で、たまたま前乗りして別の便で大阪入りしていたことが判明する。

 自分は生きている。しかし、憧れの坂本がその便に乗っていたかもしれない。ラジオブースに戻ったさんまは、いつものように笑わせようとしながらも、どこか上の空だ。「生きててくれ」。そのひと言に、“九ちゃん”への尊敬と、どうにもならない祈りがすべて集約されていた。

 やがて数週間が過ぎ、番組の中でのさんまは、再びいつも通りのテンションを取り戻していく。だが、彼の中で何も変わっていないわけではない。ドラマの終盤、さんまは「命は自分のもんやと思ってたけど、もらったもんなんや」と静かに語る。だからこそ自分のためやなく、人を喜ばせるために生きると決める。その決意が、のちに座右の銘として知られる「生きてるだけで丸もうけ」へとつながっていくのだろう。

 幼い頃の事故をきっかけに「いつも笑顔でいる」と決めた坂本九と、墜落事故をきっかけに「人を笑わせるために生きる」とあらためて腹を括った明石家さんま。2人の運命は残酷なまでに対照的だが、その根っこには「自分に与えられた命を、どう使うのか」という同じ問いがある。ドラマはそこに至るまでの時間を、過度なメロドラマにせず、さんまらしい笑いの温度を保ちながら描き切っていた。

 もしあの日、便がいつも通りだったとしたら。ドラマはたらればを必要以上に掘り下げない。ただ、“九ちゃん”の笑顔と、さんまの笑いが同じ時代に存在していたこと、そのバトンが確かに受け継がれていることを示して終わる。画面の向こうで笑い続ける人を見るたびに、少しだけ上を向いて歩ける。そんな感覚を、あらためて思い出させてくれるドラマだ。

■放送情報
『誰も知らない明石家さんま』
日本テレビ系にて、12月14日(日)19:00〜21:54放送
出演:明石家さんま(MC)、徳島えりか(日本テレビアナウンサー)
ゲスト:石野真子、磯野貴理子、上白石萌歌、後藤輝基、佐藤勝利、滝沢カレン、東野幸治、満島真之介

『さんまと坂本九 2人の国民的スター 知られざる運命』
出演:山田裕貴(明石家さんま役)、山本耕史(坂本九役)
総合演出:髙橋利之
プロデューサー:天野英明、藤森真実、櫻井雄一、藤山高浩、岸根明、溝口道勇(ソケット株式会社) 
監督:内田秀実
脚本:オークラ
制作協力:ソケット株式会社
©︎日本テレビ

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