『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が提案する成長のかたち “わずかな一歩の変化”の重要性

 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)、『虎に翼』(NHK総合)、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジテレビ系)などなど、日本でも従来の家父長制的な価値観や性別への役割の押し付けからの脱却を意識したドラマ作品が、珍しくなくなってきている。現在放送中のTBS系火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、この問題を分かりやすく、かつ身近な範囲で描く恋愛ドラマシリーズだとして注目されている。

 ここでは、「再生ロマンスコメディ」と自称する本シリーズ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の現時点での放送分(第8話まで)の内容を振り返りながら、このドラマが描いているものが何なのかを深堀りしていきたい。

※本記事では、ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第8話までのストーリー展開を一部明かしています

 谷口菜津子による原作漫画をベースにした本シリーズは、旧態然とした価値観に囚われていることで、プロポーズするも無惨に振られてしまった男性、海老原勝男の視点を中心に、その認識を改善していくストーリーである。ドラマ版では、その内容を引き継ぎつつ、夏帆と竹内涼真をW主演に、勝男を振った山岸鮎美の側の事情にもかなり重心を持たせている印象がある。

 「上げ膳据え膳」、「女は3歩下がって歩くべし」などといった、前時代的な夫婦生活が当たり前だと思っている勝男。彼は、90年代頃に流行ったようなドラマの恋愛に憧れ、大学時代からの恋人で、ともに九州から上京して同棲している山岸鮎美に対しても、古い恋愛観をもとに接し、さまざまなことを要求していた。

 なかでも強烈なのは、料理への注文だ。「男子厨房に入らず」を地でいく勝男は、家庭的で完璧な和食を求め、好物の「筑前煮」をはじめとして、そのすべてを鮎美に作らせている。「出汁は手間ひまかけて伝統的な調理法でとる」、「献立全体が茶色過ぎないように彩りも考える」などなど、自分は一切作らないにもかかわらず、ともに会社勤めである鮎美への要求が、異様に高いのだ。それを当然のことだと思っているだけでなく、「鮎美に期待しているからこそ言っている」などと、“理解あるパートナー”だと自認してさえいる。

 「勝男さんには分からないし、分かってほしいとも、もう思わないかな」という言葉を残して鮎美が出ていってから、自分の何が悪かったのかを自問自答する勝男。会社の後輩からの「筑前煮作ったことあります?」と投げかけられたことをきっかけに、実際に自分で作ってみようとすることで、本シリーズのドラマは動き出していく。

 そこからの一連のシーンは、鮎美と同じようにパートナーの料理を日々作ってきた経験がある視聴者にとっては、拍手喝采の箇所だろう。いくら格闘しても七転八倒しても、家庭科の授業以来、包丁もまともに握ったことのない人物に、まともな筑前煮など作れるわけがないのだ。しかも、すべてに手間ひまをかける料理しか認めてこなかった以上、時短やお手軽な調理法を、自分自身の価値観が許さないのである。まさに因果応報といえる展開であり、作品タイトルそのものの状況だといえよう。

 しかしここから意外にも、素直さや“ひたむきさ”といった、勝男のポジティブな面が見えてくる。彼は筑前煮をその後も諦めず作り続けるのだ。そしてその出来が、鮎美の作った筑前煮に遠く及ばないことに気づき、自分がどれほど過酷な要求をしていたのかに気づくのである。これは、自分で何度もチャレンジしたからこそ得られる認識であり、料理や家事というものがどれほど精神を削り、時間や技術を必要とするのかという事実を示す描写だといえる。

 勝男は、その後も会社の仲間たちとのコミュニケーションや、マッチングアプリで知り合って友人となった柏倉椿(中条あやみ)とのやりとりを経て、自分の行動や価値観を日々見直し、更新していく。まさにコンピューターのシステムやアプリなどに例え、この試行錯誤が「アップデート」と言われる理由である。ちなみに、中条あやみ演じる、このアグレッシブで自信家の女性・椿と、前原瑞樹演じる、勝男の会社の後輩・白崎ルイが、筆者がお気に入りのナイスなキャラクターだ。

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