『シバのおきて』犬と“最期まで生きる”ために必要なこと 幸福に満ちていた「シバだらけ」
残すところあと2話となった、犬を愛する人たちのための正しい生き方指南ドラマ『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』(NHKドラマ)。会社の前で即席に足型サイン会まで開催されるほど人気が沸騰した福助のおかげで、『シバONE』は順調に売り上げを伸ばし、認知度は確固たるものとなった。
「我が家の愛犬を福ちゃんに会わせたい!」「一緒に遊ばせてみたい!」という熱いファンの期待に応えようと、編集部は「シバONEフェス」の開催を決定。さらに相楽(大東駿介)は当日の人気コーナーの投票結果を誌面上で公開し、最も支持された企画立案者には温泉旅行をプレゼントすると宣言する。賞品を狙う石森(飯豊まりえ)らは、滑沢先生(松坂慶子)も巻き込みながら本気で企画を考えていく。
音楽に詳しい新藤(篠原悠伸)により実現した柴犬と“犬バカ”のためのフェス。一方で、このドラマが犬をかわいがるだけのドラマではなく、人と犬、さらに人と人とのよりよい繋がりについてこれまで考察と模索を繰り返してきたとおり、「シバONEフェス」は単なる祝祭にとどまらない一面があった。
人気企画をバージョンアップしたコーナーの数々に多くの飼い主たちが頬を緩ませる中、相楽たちにはまた別の思いがあった。「突撃!隣のシバライフ」でインタビューをした飼い主の一人・岡崎さん(丘みつ子)は、自身も愛犬のタロウも高齢のため長い時間散歩をしたり、走ることもできなくなった。そんな岡崎さんとタロウを、相楽は「指圧を受けたり、ただぶらぶらしてるだけでも大丈夫」とシバフェスに誘う。人間と同じく、犬をはじめとした伴侶動物たちもまた医療の進歩や食生活の改善などで長寿化が進んでいる(※1)。
子供の頃に犬猫を飼いたいとせがんだことのある人なら、誰しも周りの大人から「最後まで責任を持って飼えるの? できないならダメだよ」と言い聞かせられた経験があるはずだが、岡崎さんのように犬と人とが等しく老いていくというのが今の社会の現実だ。シバフェスが続けば、地域などの共同体において孤立してしまいがちな高齢者などを、犬をきっかけにして繋がりあえるようにする役目も期待できると感じた。調べてみると、『シバONE』のモデルとなった雑誌『Shi-Ba』もまた、今年初めてイベントを開催したそうだ(※2)。
ちなみにアメリカでは、飼い主個人が最後まで責任を持つというより、コミュニティで最後まで責任を持つ社会へと変化しているそうだ(※3)。『シバのおきて』第5話では、余命いくばくもなくなったボムをどう看取るかを編集部で考え抜いていた。“高齢者だから犬を飼えない/飼ってはいけない”という考え方ではなく、どうすれば犬が最後の瞬間まで穏やかで、満ち足りた気持ちでいられるかを模索していくことこそ、本作が最も意図したことなのかもしれない。
もちろん「シバONEフェス」は、犬たちにとってもかけがえのない時間になった。コスプレ撮影会や滑沢先生の指圧教室、意外とためになる豆知識も飛び出すシバウルトラクイズ、シバへの熱烈なラブソングを披露するのど自慢など、思い思いの企画はどれも好評を博すが、飼い主たちの心をつかんだのは、石森考案の人間から離れた柴犬だけの空間を作る企画「シバだらけ」だ。
これには編集部一同、意表を突かれた。特に相楽は「俺が見たかったのはこういう景色かもな……」と涙を堪えきれなかった。それはとりもなおさず、柴犬たちが幸福そうに縦横無尽に走り回ったり、ただ歩いたり、くつろいだりする姿こそが、訪れた“犬バカ”たちが心から見たかった景色だったからだ。犬の幸福こそが飼い主のこの上ない幸福という“犬バカ”の原点に回帰した、プレ最終回だった。
参照
※1. https://www.petfamilyins.co.jp/pns/article/pfs202112zm/
※2. https://www.nasuhai.co.jp/hotnews/detail.php?n=1107
※3. https://magazine.cainz.com/wanqol/articles/dog_social_issue02
■放送情報
ドラマ10『シバのおきて~われら犬バカ編集部~』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~放送
出演:大東駿介、飯豊まりえ、片桐はいり、こがけん、篠原悠伸、やす、黒田大輔、水川かたまり、瀧内公美、勝村政信、松坂慶子ほか
声の出演:柄本時生、津田健次郎
原作:片野ゆか 『平成犬バカ編集部』
脚本:徳尾浩司
音楽:YOUR SONG IS GOOD
プロデューサー:内藤愼介(NHK エンタープライズ)
演出:笠浦友愛、木村隆文、加地源一郎、村田有里(NHK エンタープライズ)
制作統括:高橋練(NHK エンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
写真提供=NHK