『イクサガミ』に世界中が大興奮! 流血沙汰の撮影をこなした岡田准一らのリアリティ

 また、因縁のライバルである“乱斬り無骨”こと貫地谷無骨(伊藤英明)との1度目の立ち合いの際、愁二郎の左まぶたからの出血が見られるが、実はこれはガチの負傷のようだ。アクシデントで伊藤の刀が岡田を直撃し、傷を負わせてしまった。だが、岡田准一と藤井監督は、その傷を生かす選択をする。戦闘狂の無骨は、ダイナミックに狂ったように刀を振り回すキャラだ。ここからは想像だが、このアクシデントにより、伊藤が萎縮して動きが小さくなることを、岡田と監督は危惧したのではないか。「岡田さんの治療待ちで一時中断しまーす」なんて事態になったら、伊藤が反省してしまう。反省する無骨など、もはや無骨ではない。それを危惧した岡田と監督は、そのまま撮影続行を選んだのではないか。なかなかの出血だったが、結果、リアリティあふれるシーンとなった(なにしろ本物の血だから)。そのシーンの撮影後、謝りに来た伊藤に対して、「伊藤さんのおかげでいい画が撮れましたよ!」と、岡田准一は爽やかに笑ったはずだ(あくまで想像)。

 今回配信の全6話は、「第1章」と銘打たれている。そして、この第1章でのラスボスに当たるのが、この貫地谷無骨だ。彼は言わば戦闘依存症であり、戦いの場でしか生きられない人間だ。自分でも、「人を斬ることでしか自分を証明できねぇ」とこぼしている。武器は、斬馬刀のように巨大な刀だ。おそらく、キャラ的にろくに刀を研いだりもしないだろう。だがその刀なら、多少斬れ味が鈍っても、刀の重さ自体で人間を両断できる。

 彼と愁二郎の初対決は、戊辰戦争終結直後の戦場においてだ。あれだけの激戦を終えてもやり足りない無骨は、愁二郎に勝負を挑む。腹→胸→顔と順に斬り上げていく回転斬撃で愁二郎が勝つが、とどめは刺さずに立ち去ろうとする。「ここで殺さなかったら、一生お前のこと追いかけるぜ」からの、笑顔での「また会おうなー!! 人斬り刻舟ー!!」の絶叫。そして彼は10年間愁二郎を追い求め、この蠱毒にも、愁二郎に逢えるのではないかという期待を胸に、参加している。

 歪みに歪んではいるが、これはある意味“恋”である。無骨の、切ない片思いだ。やたら無関係の人間を斬り殺すのも、おそらく構ってほしいからである。そして、武士の世が終わり死んだように生きてきた無骨は、死に場所を求めている。それならば、愛する愁二郎に殺してほしいのではないか。まだ心の傷が癒えてないときの愁二郎との立ち合いにおいて、確かに愁二郎が無骨の頸に刀を振り下ろせるタイミングがあった。だがそのときの愁二郎は、刀を振り下ろせなかった。その際の無骨の「なにやってんだよぉぉ……!!」との咆哮は、怒りというよりも悲しみに満ちていた。

 だから、覚醒後の愁二郎との立ち合いにおける無骨は、心から嬉しそうだ。愁二郎もそれに応え、小細工なしの真っ向勝負を受けて立つ。「やっぱりお前との殺し合いは最高だな!」との無骨のセリフも、ある意味、愛の告白である。

 ちなみに、この愁二郎対無骨の立ち合いには、いろいろな映画へのオマージュがちりばめられている。無骨に追われて石段を転げ落ちる愁二郎の姿は、『蒲田行進曲』(1982年)のヤス(平田満)のようでもあり、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023年)のキアヌ・リーヴスのようでもある。燃え上がる炎の中での戦いは、『魔界転生』(1981年)の千葉真一と沢田研二だ。

 そして決着のとき。長く静かなにらみ合いからの、一瞬だけ速かった愁二郎の居合。吹き上がる無骨の血。これはもはや『椿三十郎』(1962年)である。筆者は常々、「今の岡田師範主演で『椿三十郎』をリメイクしてほしい」と思っていた。思わぬところで夢がかなった。ありがとうございます。

 無骨は、初めて見せる穏やかな表情で、「人斬り刻舟、俺は幸せだよ」と呟いて死んでいく。彼の恋が、彼の想いが、成就した瞬間である。これは、誰がなんと言おうとハッピーエンドだ。息絶えた無骨を見つめる、愁二郎の切なげな表情も印象深い。かつては無骨と同じく動乱期の人斬りであった愁二郎にとって、これは自分がそうなっていたかもしれない姿だ。だから彼は、そんな修羅の道から自分を救ってくれた家族を救うために今、命を懸けているのだ。

 無骨との勝負が終わり、このまま第1章が終わるのかと思っていたら、残り2分で突然最後の大物が登場する。“狂気の天才少年剣士”天明刀弥である。この刀弥の配役については事前に発表がなかったため、おそらくすべての視聴者が心の底から驚いたと思われる。筆者も思わず大きな声が出た。すでにネットでも話題になっており、Netflix公式も発表しているが、一応演者の名は伏せておく。まだ知らない方は、ネットを遮断して、できるだけ早く第6話まで観てもらいたい。ヒントは足場の悪い石段途中での戦闘で、一切バランスの崩れない美しい後ろ回し蹴りを出すことのできる人間だ。

 そしてそのまま「第1章・完」である。思わず悲鳴をあげた。もう第2章の撮影は始まっているのだろうか。それともこれから撮るのだろうか。なんにせよ、このままでは生殺しが過ぎる。一刻も早く、嵯峨愁二郎と天明刀弥の邂逅が観たい。岡田准一の、二歩目、三歩目を、見届けたい。

参照
※ https://www.buzzfeed.com/jp/yuikashima/netflix-ikusagami-junichiokada

■配信情報
Netflixシリーズ『イクサガミ』
Netflixにて世界独占配信中
主演・プロデューサー・アクションプランナー:岡田准一
出演:藤﨑ゆみあ、清原果耶、東出昌大、染谷将太、早乙女太一、遠藤雄弥、岡崎体育、城 桧吏、淵上泰史、榎木孝明、酒向芳、松尾諭、矢柴俊博、黒田大輔、吉原光夫、一ノ瀬ワタル、笹野高史、松浦祐也、宇崎竜童、井浦新、田中哲司、中島歩、山田孝之、吉岡里帆、二宮和也、玉木宏、伊藤英明、濱田岳、阿部寛
原作:今村翔吾『イクサガミ』シリーズ(講談社文庫刊)
監督:藤井道人、山口健人、山本透
脚本:藤井道人、山口健人、八代理沙
音楽:大間々昴
撮影:今村圭佑、山田弘樹
照明:平林達弥、野田真基
プロダクションデザイナー:宮守由衣
衣装デザイン:宮本まさ江
キャラクタースーパーバイザー:橋本申二
VFX:横石淳
助監督:山本透、平林克理
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一
プロデューサー:押田興将
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
企画・製作:Netflix

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