『できても、できなくても』実写化を考える “社会的な痛み”と向き合うために必要なこと
また、本作では「男性側の不妊」や「治療を共有するパートナーの葛藤」がほとんど描かれない点も惜しい。近年の調査では、カップルの不妊原因の約半数が男性側にもあるとされているにもかかわらず、ドラマの中では“妊娠できない”ことが依然として女性だけの責任として描かれている。こうした構図は、社会が長年築いてきた「母性=女性の価値」という偏った物語を再生産してしまう危うさをはらむ。
“不妊でも幸せになれる”というメッセージを超えて、「なぜ社会は“産める/産めない”を価値の基準としてきたのか」を問うこと。それこそが、この題材を扱う上での核心にあるはずだ。昭和的な「母になることこそ女性の使命」という価値観が、令和の今なお文化や家庭に残り続け、それが職場や恋愛、家族の関係に影を落としている現実。翠の苦しみは、個人の問題ではなく、社会構造に刻まれた偏見そのものだ。
それでも、『できても、できなくても』という作品が存在する意義はある。不妊をテーマにしたドラマは依然として少なく、沈黙してきた痛みを可視化する試みは貴重だ。課題は、その痛みを「物語のための素材」としてではなく、「語るべき現実」として扱うことだろう。不妊症という女性が自分の人生を見つめ直すのか――その問いを正面から描くことができれば、タイトルに込められた「できても、できなくても」という言葉は、より深い意味を帯びて響いてくるはずだ。
参照
※ https://realsound.jp/movie/2025/09/post-2155492.html
“不妊症”を題材にした朝日奈ミカによる同名コミックを原作にしたラブストーリー。心身ともにボロボロの中、ナンパ男から助けてくれた月留真央と出会った主人公・翠のリスタートの日々が幕を開ける。
■放送情報
木ドラ24『できても、できなくても』
テレ東系にて、毎週木曜深夜24:30〜25:00放送
BSテレ東にて、毎週日曜24:00〜24:30放送
ネットもテレ東(テレ東HP、TVer、Lemino)にて見逃し配信
出演:宇垣美里、山中柔太朗、樋口日奈、大原梓、鶴嶋乃愛、上原佑太、渋谷謙人、古屋呂敏、水崎綾女
原作:朝日奈ミカ『できても、できなくても』(シーモアコミックス)
監督:高橋名月、富田未来
脚本:加藤綾子、松下沙彩、中西秋
音楽:鈴木ヤスヨシ
エンディングテーマ:chilldspot「踊っていたいわ」(RECA Records)
プロデューサー:吉川肇(テレビ東京)、古林都子(The icon)
特別協力:コミックシーモア
製作著作:「できても、できなくても」製作委員会
制作:テレビ東京/The icon
©「できても、できなくても」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/dekideki/
公式X(旧Twitter):@tx_dekideki
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