北川景子、“汚れ芝居”で到達した新境地 『ばけばけ』『ナイトフラワー』で極まる表現力

 “誰もが羨むような人物だった”と過去形で記したのは、これらはまさに今は昔の話だからである。時代の変化についていけず、頼りとなる夫を亡くし、それでも息子・三之丞(板垣李光人)のために生きていかなくてはならない。タエはいま、物乞いをしている。

 本作の公式ガイドブックである「NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 ばけばけ Part1」にて北川は、「もし子どもがいなかったら、自害しようとさえ思ったのではないでしょうか」とタエのキャラクターを分析している。この発言はとても重要で、多くの示唆に富んでいるものなのではないだろうか。この令和の時代に生きている人間からすると、かつての雨清水家の位がいったいどれくらい高かったのか、正直なところ実感が湧かない。松野家を対置させればその違いは明白だが、私たちからするとやはり抽象度が高いだろう。

 けれども北川は現在のタエについて、自ら命を絶ってもおかしくないほどのものだと語っている。これはタエというフィクション上の人物の転落ぶりがいかに大きいのかを、私たち視聴者に肌で感じさせるものだ。雨清水家の興隆と没落、それにともなうタエの心情の揺れを、北川は具体的に、そして誰よりも的確に捉えている。劇中のタエの身なりに施されている“汚し”は決してリアルなものだとはいえないが、その佇まいには真に迫る生々しさがある。北川が生み出すタエの内面が、視線や所作の隅々にまで表れているからなのだろう。これらを示すセリフがなくとも、北川は佇まいと振る舞いによって語るのだ。

映画『ナイトフラワー』本予告【11月28日(金)公開】

 そんな彼女は、11月末に公開となる主演映画『ナイトフラワー』でも、華やかさなどとはほど遠いキャラクターを演じている。借金取りに追われながらもふたりの子どものために働き、やがて貧困生活から抜け出すべくドラッグの売人になる決意をする女性、という役どころ。作品のタイプもテイストも異なるが、北川が担う役どころとしては『ばけばけ』のタエと通じるものがある。しかしそれでいて、演技のタイプやテイストは対照的なものだといえそうだ。タエ役では静的に役を表現しているが、『ナイトフラワー』の永島夏希役は動的な表現であることが、予告編などからも分かってもらえるだろう。私たちはいま、まったく新しい俳優・北川景子と出会おうとしているのかもしれない。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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